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情報管理は万全ですか?~営業秘密の漏洩事件

2023/05/11 20:09
情報管理は万全ですか?~営業秘密の漏洩事件

文責:スパークル法律事務所

 

 

 先日、警視庁は、所属する社員が以前勤務していた大手総合商社から営業秘密を持ち出した疑いがあるとして、大手総合商社「双日」の本社を不正競争防止法違反の疑いで家宅捜索したと報道されました。ニュースサイトでもトップ記事として報じられています。昨年の同様の件である「かっぱ寿司」の件の判決が近いこともあり、転職元の情報の持ち出しとそれに対する対策が業界横断的に特に経営陣の注目を集めており、当事務所にも体制整備に関する相談が増えているところです。

 

 

 社員の転職元の企業から営業秘密を持ち出しというのは古くて新しい論点です。転職が以前と比べると一般的となった今日においては、転職元の営業秘密の流出もさることながら、転職先の企業でも他社の営業秘密を利用してしまっているといった事態がどの企業においても発生します。そのような事態を防ぐために、どのような管理体制を構築することが効果的でしょうか。

 

 

 本記事では、簡単に、転職元・転職先の会社として、何が問題で、どのようにこの問題から身を守ることができるかについて触れます。

 

 

1.営業秘密とは

 営業秘密の定義は、不正競争防止法(不競法)2条6項  にありますが、企業の研究・開発や営業活動の過程で生み出された様々な秘密情報のことをいい、具体的な例としては、顧客名簿や新規事業計画、価格情報、対応マニュアル等の営業に関する情報や、製造方法・ノウハウ、新規物質情報、設計図面等の技術に関する情報があげられます。このような有用な情報が秘密として管理され、一般には入手できないような場合、営業秘密となります。営業秘密該当性は、一般に、①秘密管理性、②有用性、③非公知性の三要件によって判断されています。

 

 

参考 不正競争防止法(不競法)2条6項

第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

六 その取得した後にその営業秘密について営業秘密不正取得行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為

 

 

2.不正競争防止法には刑事罰もある

 営業秘密を不正の手段によって取得することや、不正に取得した営業秘密を使用する行為等は「不正競争」(法2条1項各号)として法令違反となり、民事事件で損害賠償を請求される可能性があるほか(法4条)、差止めの対象にもなり(法3条)、刑事罰が科されることもあります(法21条)。今回の事件も刑事事件として立件されていますが、近時では、回転寿司大手の「かっぱ寿司」の運営会社元社長が、競合である「はま寿司」の営業秘密を持ち出したとして逮捕された事件も報道されていました。

 

 

 不正競争防止法では、両罰規定も設けられており、法人も処罰の対象になることに注意が必要です。上記の「かっぱ寿司」の件でも、運営会社であるカッパ・クリエイトも立件され、起訴されています。社内に営業秘密が持ち込まれることにも大きなリスクがあることが分かります。

 

3.転職者による情報漏洩に注意~対応のポイント

 転職元の会社が営業秘密の漏洩を防ぐためには、営業秘密へのアクセスを厳格に管理する等、営業秘密の管理体制を構築することが必要です。また、営業秘密の侵害が発覚した場合のリスクについて社内で認識を共有し、コンプライアンス意識を高めることも重要です。また、退社前後には、退職者の情報へのアクセスについてチェックする体制を築き、何か見つかった場合は外部弁護士の助力を得るなどして、転職者及び転職先の会社へのコミュニケーションを含めて検討することが考えられます。ただ、この場合、退職者が営業秘密を持ち出すこと自体は、退職者と転職元との関係であり、転職先に命じられたなどの事情がない限り転職先は営業秘密を利用をしなければ違法ではないということには注意する必要があります。

 

 

 転職先の会社の場合、外部から営業秘密が社内に持ち込まれ、知らず知らずに使われてしまうことが問題です。現に利用してしまった疑いがあるとして本件では転職先が捜索の対象となっています。この問題に対応する体制としては、転職者の入社時に誓約書を差し入れてもらうほか、入社後例えば1か月程度は受信しているメールのチェック(特に個人アドレスのものから)を特に厳しくする、上司の管理監督義務を明確化し上司による現場での監督体制を構築する、他の部員による内部通報窓口の利用を促すといった対応が考えられます。

 

 

 また、そもそも社内風土として、このような営業秘密を利用するという法令違反をしてまで利益を優先しないといった社内コンプライアンス意識の醸成が重要となります。この際、単なるルールへの注意喚起ではなく、経営陣からのメッセージとできるかということが一つポイントとなります。経営陣にとって、違反が露見した時のレピュテーション被害や捜査・報道対応は、売上増の期待をはるかに上回るものになりますので、その経営陣の感覚を全社で共有することができるかという問題です。

 

 

4.さいごに

 以上、簡単ですが、営業秘密に関して解説いたしました。当事務所においても、社内体制の整備、特に営業秘密管理に関するポリシー策定や関連社内規定の整備、トレーニングでの講師や、その他の不正競争防止法違反事案にも対応しておりますので、ぜひお気軽にご連絡ください。

 

 

参考資料:経済産業省ウェブページ「営業秘密~営業秘密を守り活用する~」

 

※本記事は、2023年4月28日配信のスパークル法律事務所ニュースの内容と同じものです。

 

文責:スパークル法律事務所

連絡先:TEL 03-6260-7155/ info@sparkle.legal 

本記事は、個別案件について法的助言を目的とするものではありません。
具体的案件については、当該案件の個別の状況に応じて、弁護士にご相談いただきますようお願い申し上げます。
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