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育成就労制度の創設

2024/06/17 10:30
育成就労制度の創設

文責:弁護士 大城 章顕

 

 

  令和6年6月14日、技能実習制度に代わる育成就労制度を創設するための改正法が成立しました。技能実習制度には様々な問題点が指摘されており、また、本来の目的と実態との間に大きな乖離が生じていたことから、新たに「育成就労」という制度として生まれ変わることになります。

 

 そこで、本稿では技能実習制度から育成就労制度に変わることについて、必要な対応も含めて解説していきたいと思います。

 

(※本記事は、2024年5月30日配信のスパークル法律事務所ニュースvol.16(一部改訂)です。)

 

 

1. 技能実習制度とは

 技能実習制度は、それまで海外の現地法人で行われていた研修制度を原型として1993年に制度化されたもので、その後、2017年に現在の「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(技能実習法)が施行されました。

 

 技能実習は、技能を習得するための技能実習1号(1年間)、技能を習熟するための技能実習2号(2年間)、2号のあとに行われる技能実習3号があります。この技能実習制度の目的は、人材育成を通じた開発途上地域への技能移転による国際貢献とされており、労働力の需給の調整の手段として行われてはならないことが技能実習法に定められています。

 

 技能実習制度の受入れ機関としては、団体監理型(非営利の監理団体が技能実習生を受入れ、傘下の企業等で技能実習を行うもの)と企業単独型(企業が合弁企業や取引先企業の職員を受入れて技能実習を行うもの)がありますが、98%以上が団体管理型となっています。

 

 なお、技能実習生と受入企業(実習先)の間では労働契約関係が成立し、技能実習生には各種労働法規が適用されることになっています。

 

2. 指摘されていた問題点

 このように、開発途上地域に対する国際貢献として生まれた技能実習ですが、現実的には人手不足の多くの業界において重要な労働力となっていたという実情があります。特に、建設、食品製造や農業などの分野では、技能実習生がいなければ成り立たないという状況といっても過言ではありませんでした。このように、本来の技能実習制度の目的と実態の間には大きな乖離が生まれていました。

 

 また、技能実習が終了した後、2019年に創設された在留資格である特定技能へと移行して引き続き日本国内で働くことは可能であるものの、両者はあくまでも別の目的を持った制度です。そのため、対象となる職種・分野が異なっていたり、技能実習終了後は帰国することが制度上の原則となっていたりするなど、スムーズに特定技能に移行するという面でも難点がありました。

 

 スムーズな移行が難しいために技能を習得した実習生が帰国せざるを得ないという現状は、日本が働き先として選ばれなくなってきている原因の一つとなっています。特に、昨今は韓国など諸外国と人材獲得競争が激化しており、このままでは技能実習制度が成り立たないおそれがありました。

 

 そのほかにも、技能実習では転籍が制限されていることも一因となり、実習先での労働法規違反やハラスメントが横行しているといった報告も少なくありません。そのため、技能実習生が実習先から失踪してしまう例もしばしば見られます。このような実態があったため、諸外国から日本の技能実習制度は人権侵害の温床となっていると指摘されていました。

 

3. 育成就労制度の概要

 以上のように、技能実習制度にはいくつもの問題点が指摘されていました。そのため、政府は技能実習制度を見直すことに着手し、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」において議論が重ねられ、最終報告が提出されました。

 

 これを受けて、今年2月に「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議最終報告書を踏まえた政府の対応について」が公表され、現行の技能実習制度を解消し、育成就労制度へと移行する方針であることが明らかとなりました。そして、育成就労制度創設のための法律案が作成され、間もなく新法が成立する見込みとなっています。

 

 技能実習制度の目的は開発途上地域への技能移転による国際貢献でしたが、育成就労制度の目的は、「育成就労産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を有する人材を育成するとともに、育成就労産業分野における人材を確保する」ことと明記されています。このように、育成就労制度は、正面から人材の育成と確保を目的としているという大きな特徴があります。

 

 そして、技能実習制度では原則として3年間は転籍(職場の変更)ができませんでしたが、育成就労では1~2年が経過すれば本人の意向による転籍が認められることとなります。これは、労働者としての権利保護を厚くすることになり、労働法規違反等の問題の解消につながることが期待されています。

 

 また、育成就労は、3年間の就労により特定技能1号水準の人材を育成することを目指していますので、原則として対象分野を特定技能1号と一致させることになります。そのため、分野や業務の連続性が強化され、日本に来る外国人労働者としてもキャリアパスがわかりやすくなり、日本で長く働くことにつながると考えられます。

 

 そして、日本で長く働くことを可能にするため、日本語能力が向上するための方策を講じたり、地域への定着を図るための環境整備等を行ったりすることも義務付けられます。

 

 そのほかにも、受入れ機関や監理団体の要件の適正化、悪質な送出機関の排除、ブローカーの排除といった方策も盛り込まれました。

 

 対策が不十分であるとの批判もあるものの、上記のように、育成就労制度は外国人人材を労働力として正面から認め、技能実習制度で問題とされていた点についての対応が盛り込まれた制度として創設されることになります。

 

4. 育成就労制度への対応

 技能実習法は、「外国人の育成就労の適正な実施及び育成就労外国人の保護に関する法律」(育成就労法)に改正され、公布の日から3年以内に施行されることになります。

 

 諸外国との人材確保競争が激化しているため、日本が外国人から選ばれるように環境を整えることが必要です。そのためには、政府の取り組みだけでなく、地域の一員として受け入れられるように地域住民も含めたコミュニティーの構築が必要になり、受入企業も積極的な協力が求められるでしょう。

 

 また、技能実習制度に比べて育成就労制度では転籍がしやすくなることから、諸外国との競争だけでなく、日本国内においても受入企業間の人材獲得競争が激しくなることが予想されます。そのため、賃金などの労働条件を向上させることが必要になると考えられますし、同時に働きやすい、生活しやすい環境を整えることがこれまで以上に求められるかもしれません。

 

 さらには、育成就労から特定技能への移行がスムーズとなることにより、長期間同じ受入企業で働き続けやすくなりますので、人材の長期育成という視点をもったキャリアパスの構築も必要になるでしょう。

 

 いずれも受入れ機関にとっては容易なことではなく、負担も大きいものですが、人材不足解決のために労働力を確保するためには法の施行前から少しずつ準備を始めておくことが重要です。

 

以 上

 

 

執筆者:弁護士 大城 章顕
    fumiaki.oshiro@sparkle.legal

 

本記事は、個別案件について法的助言を目的とするものではありません。
具体的案件については、当該案件の個別の状況に応じて、弁護士にご相談いただきますようお願い申し上げます。
取り上げてほしいテーマなど、皆様の忌憚ないご意見・ご要望をお寄せください。

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