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事例紹介:アマゾンジャパン事件(景表法の二重価格表示の主体・アンケート調査と有利誤認表示・東京地裁令和元年11月15日判決)

2023/01/30 16:11
事例紹介:アマゾンジャパン事件(景表法の二重価格表示の主体・アンケート調査と有利誤認表示・東京地裁令和元年11月15日判決)

文責:弁護士 津城耕右

 

 平成29年12月27日、消費者庁は、インターネット販売最大手のアマゾンジャパン合同会社(「アマゾンジャパン」)に対して、同社が運営する「Amazon.co.jp」(「本件ウェブサイト」)における二重価格表示に関して、景品表示法(「景表法」)5条2号の有利誤認表示に該当するとして、同法7条1項に基づく措置命令を行いました(消費者庁のリリース)。この措置命令に対し、アマゾンジャパンがその取り消しを求めて提訴した事件で、東京地裁はアマゾンジャパンの主張を退け、有利誤認表示にあたる旨を判示しました。

 

 この事案におけるアマゾンジャパンの主張のうち、①本件ウェブサイト上の「参考価格」は仕入先や出品者が入力したものであり表示行為主体ではないこと(表示行為主体性)、②アンケート調査を実施した結果、一般消費者が商品購入にあたって影響を受けていないこと(有利誤認表示該当性)については、実務上参考になる点があると思われますので、本記事で取り上げます。

1.事案の概要

 アマゾンジャパン(※以下「原告」とも表記します。)の運営する本件ウェブサイトにおいて提供されている商品には、①原告のみが(リテール事業として)販売するもの、②単数又は複数の出品者のみが(マーケットプレイス事業を利用して)販売するもの、③原告(リテール事業)及び単数又は複数の出品者(マーケットプレイス事業を利用)のいずれもが販売するものの3種類がある。

 

 本件ウェブサイトの設定により、複数の販売者が存在する場合であっても、同一の商品については1つの商品詳細ページしかなく、複数の販売者のうちの1者を商品詳細ページ上において販売者として表示する仕組みであり、当該ページのリンク先に他の販売者の名称、販売価格等が掲載されるようになっている。本件ウェブサイトにおいて、原告及び出品者が同一の商品を販売している場合、原告がリテール事業において販売する商品の販売価格は、同一商品を販売する競合他社の販売価格等を参考にして、原告が使用するコンピュータシステムを利用して決定され、出品者が販売する商品の販売価格は、出品者が本件ウェブサイトに掲載する商品の情報を登録する際に原告が使用するコンピュータシステムに販売価格を入力することによって決定される。その上で、原告が使用するコンピュータシステムが総合評価によって最も顧客に信頼されると判定した販売者(原告又は出品者)が、商品詳細ページにおいて販売者として表示され、当該販売者が決定した販売価格が当該商品詳細ページの中央部分に表示される一方、他の販売者が決定した販売価格は、当該商品詳細ページの右側及びリンク先ページに表示される。

 

 本件ウェブサイトには、商品詳細ページの価格欄に販売価格が表示されるほか、参考価格が併記されることがあるところ、これは、リテール事業における原告の仕入先や出品者が、任意で、原告が使用するコンピュータシステムに入力する情報である。

 

 原告が販売する3種類のクリアホルダー(以下、それぞれ「本件商品①」「本件商品②」「本件商品③」という。これらを総称して「本件3商品」という。)、商品D(以下「本件商品④」という。)、商品E(以下「本件商品⑤」という。以下、本件商品①ないし本件商品⑤を総称して「本件5商品」という。)には、本件ウェブサイト中のそれぞれの商品の商品詳細ページにおいて、一定期間、実際の販売価格を上回る「参考価格:¥〇、〇○○」(実際は数字が記入されている。)との価格が、実際の販売価格と併記されて表示されていた。本件5商品の本件各表示の直下には、本件各表示に係る本件5商品の販売者が原告であることを示す旨の記載である「この商品は、Amazon.co.jpが販売、発送します。」との記載が表示されていた。

 

 

2.アマゾンジャパンの主張

 アマゾンジャパンは、①同社は表示を行った事業者に該当しない、②本件5商品にかかる表示は優良誤認表示には該当しない等と主張した。その主な内容は、以下のとおりである。

 

  • 表示を行った事業者ではないこと

 本件各表示における参考価格は、仕入先や出品者が、単独で又は原告以外の者と共同して決定した上で、原告に対し、本件ウェブサイトに表示するよう指図したものであり、原告は、それを機械的に表示したにすぎず、別途、小売業者としての表示を作成又は使用した事実はないから、同条が規定する表示をした事業者には、該当しない。

  • 有利誤認表示には当たらないこと

 原告が、消費者の認識を調査によって確認し(「本件調査」)、その結果について経済的な分析(「本件分析」)をしたところ、一般消費者によって誤認される表示ではなく、かつ、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある表示ともいえないことが判明したから、有利誤認表示に該当しない。

 

3.裁判所の判断

 裁判所は、上記のアマゾンジャパンの主張について、以下のとおり判示し、そのいずれも認めず、請求を棄却した。

  • 表示を行った事業者か

 裁判所は、以下のように判示して、原告の主張を排斥した。

 

  • 「商品を購入しようとする一般消費者にとっては、通常は、商品に付された表示という外形のみを信頼して情報を入手するしか方法はなく、そのような一般消費者の信頼を保護する必要があることも踏まえると、表示内容の決定に関与した事業者が、景表法5条2号に該当する不当な表示を行った事業者(不当表示を行った者)に該当するものと解するのが相当である」
  • 「上記にいう「表示内容の決定に関与した事業者」とは、「自ら又は他の者と共同して積極的に表示の内容を決定した事業者のみならず、他の事業者が決定したあるいは決定する表示内容についてその事業者から説明を受けてこれを了承しその表示を自己の表示とすることを了承した事業者(他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者)及び自己が表示内容を決定することができるにもかかわらず他の事業者に表示内容の決定を任せた事業者(他の事業者にその決定を委ねた事業者)も含まれると解するのが相当である」
  • 「本件においては、原告が、一定の場合に二重価格表示がされるように本件ウェブサイト上の表示の仕組みをあらかじめ構築し、当該仕組みに従って二重価格表示である本件各表示が実際に表示された本件5商品について、原告が、当該二重価格表示を前提とした表示の下で、自らを本件5商品の販売者として表示し、本件5商品を販売していたのであるから、原告は、本件各表示について、表示内容の決定に関与した事業者といえるのであって、本件各表示の表示者は、原告であると認められる」
  • 有利誤認表示に該当するか(本件調査に関する判示内容)

裁判所は、本件分析について、

 

  • 健全な常識を有する一般消費者は、通常、本件表示③を含む商品詳細ページだけではなく、様々な情報源から参考となる情報を収集しており、本件商品⑤の価格のみならず、他の商品Eも含めた商品Eの一般的な価格水準がどの程度のものかについて十分な常識や知識を有していたといえる
  • 本件グループ①と本件グループ②の「購入したいと思う」との回答比率の差異に係るp値が056であり、「購入したいと強く思う」及び「購入したいと思う」を併せた回答比率の差異に係るp値が0.053であったから、有意水準を1%とすると、統計的に有意な差異はなく、有意水準を5%としても統計的に有意な差異はないといえる
  • 上記を前提とすると、本件表示③の有無によって、本件商品⑤を「購入したいと思う」又は「購入したいと強く思う」と回答した者の割合に有意な差異が生じなかったことが判明したところ、これは、一般消費者が本件商品⑤を購入する際に本件表示③を参考としていないことを示唆するものであるなどの結論を導く内容のものと認められる

としつつ、調査方法に関して、

 

  • 被験者のバイアスを抑える工夫がされていない
  • 質問文に、回答者に対して不当な誘導をする効果を有する文言が複数含まれている
  • サンプルサイズとの関係で、統計的信頼度が低いという問題点がある
  • 仮定の条件提示の下で行われた仮想的な効用の選択の結果にすぎず、エビデンスとしての価値も相対的に低い

とし、以上を併せ考慮すると、本件調査の結果は、基本的に信頼性に乏しいものと評価せざるを得ない、とした。そして、「信頼性に乏しい本件調査の結果に依拠してされた本件分析も、基本的には、信頼性に乏しいものと評価せざるを得ない」として本件分析の信用性を否定し、原告の主張を排斥した。

4.本件の判断内容について

  • 表示行為者について

 表示行為者が誰であるかという点に関しては、先例として東京高裁平成20年5月23日(ベイクルーズ事件)が存在する。本件では、表示行為者が誰であるかという判断基準について、ベイクルーズ事件の判示において述べられたものと同趣旨の内容を述べて、これを踏襲している。この判断基準は、景表法実務において今後も採用されるものであると考えられることから、事業者はこれを前提として景表法への適合性に関して判断することとなる。

  • 有利誤認該当性について

 原告は、本件5商品のうち、商品Eについてアンケート調査を実施し、その調査結果と分析内容を本訴訟において提出した(回答者は4519名)。

 

 原告は、このアンケートによって、本件の各表示は消費者の商品購入にあたって参考とされていないものであるとして、顧客を誘引するものでも、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあるものでもないことが明らかであると主張したが、裁判所はその調査方法に問題があり、結果に信頼性が乏しいとして主張を排斥している。

 

 このような主張立証を行った事例は少ないが、諸外国においてはこのような主張立証がされることも珍しくはないようである[1]。今後、このような主張立証を行う者が増えることも考えられ、本判決において示された本件調査に関する検討事項は、かかる主張を行う場合の調査方法に関して参考になるものと思われる。

 

[1] 判例タイムズNo1491 144頁参照

 

執筆者:弁護士 津城 耕右
    kosuke.tsushiro@sparkle.legal

 

本記事は、個別案件について法的助言を目的とするものではありません。
具体的案件については、当該案件の個別の状況に応じて、弁護士にご相談いただきますようお願い申し上げます。
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