BLOG法律記事

事例紹介:ライフサポート事件(景表法の「一般消費者」の解釈等:大阪地裁令和3年4月22日判決)

2023/01/05 17:00
事例紹介:ライフサポート事件(景表法の「一般消費者」の解釈等:大阪地裁令和3年4月22日判決)

文責:弁護士 津城 耕右

 

はじめに

 

 消費者庁は、平成31年3月6日、通信販売事業を行う㈱ライフサポート(以下「ライフ社」という。)がおせち料理に関して行っていた広告表示に関して、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」という。)違反であるとして景表法に基づく措置命令を行った(消費者庁のリリース)。ライフ社は、かかる措置命令に対して、その取消しを求めて大阪地裁に訴訟を提起し、大阪地裁は、令和3年4月22日、その請求を棄却した。

 

 本記事では、この大阪地裁判決の判示内容から、景表法5条2号の該当性に関し、①「一般消費者」の意義、及び、②過去の販売価格を表示する二重価格表示の有利誤認表示該当性の判断における販売実績の有無の判断に当たって購入決定後の割引を考慮することができるか、に関して記載するものである(なお、本件訴訟では、その他にも複数の争点が存在するが、それらは割愛している。)。

1 事案の概要

 原告(ライフ社)は、ラジオ、新聞、インターネット、カタログ及びテレビによる通信販売によって、消費者に対して食品、健康食品及び雑貨等の販売を行う株式会社である。

 

 原告は、おせち料理である7商品(以下「本件7商品」という。)について、セール価格である「スーパー早割価格」、「早割価格」、「特別価格」、「歳末特別価格」又は「テレショップ特別価格」による販売、若しくは、「通常価格」による販売をするとして、少なくとも平成29年9月15日~同年12月27日の間、①自社ウェブサイト、②ヤフーウェブサイト、③新聞広告、④カタログ「かに・おせち特別号Vol.2」(以下「本件カタログ」という。)、⑤チラシ「おせちVol.2」(以下「本件11月チラシ」という。)、⑥チラシ「おせちVol.4」(以下「本件12月チラシ」といい、本件カタログ、本件11月チラシ及び本件12月チラシを併せて「本件カタログ等」という。)に広告表示を掲載し、また、テレビ、ラジオ等の媒体による広告を放送した。

 

 本件カタログ等(ただし、本件12月チラシを除く。)には、いずれも、本件7商品について、「通常価格」と称する価格とこれに対応する商品番号及びこれより安価のセール価格(本件カタログにつき「スーパー早割価格」と称する価格〔セール価格適用期間:平成29年10月7日~同年11月15日〕、本件11月チラシにつき「特別価格」と称する価格〔セール価格適用期間:同月9日~同月30日〕)とこれらに対応する商品番号がそれぞれ記載され、本件12月チラシには、本件7商品について、「通常価格」と称する価格を記載してこれに抹消線を表示した上で「歳末特別価格」(セール価格適用期間:同年12月1日~同月26日〔最終申込締切日:同月27日〕)と称する価格とこれに対応する商品番号が記載されていた。

 

 そして、原告は、原告各ウェブサイトにおいて、本件7商品について、判決別表3-1~7の各「歳末特別価格」による販売に関する広告表示として、判決別表2の「表示媒体」欄記載の各媒体において、「商品」欄記載の各商品について、「表示期間」欄記載の各期間、「表示内容」欄記載の各広告表示(本件各表示)をした(以下、本件各表示のうち、各商品の表示をいうときは、「本件△△表示」等と表記する。)(なお、判決別表は本記事においては省略する。)。原告は、本件7商品に係る自社ウェブサイトを含む上記の各広告の表示内容を自ら決定していた。

 

 原告においては、セール価格適用期間経過後にセール価格により注文する旨のはがきやファクシミリを受領し、又は同様の電話による注文を受けた場合には、オペレーターが、当該注文者に対し、セール価格適用期間の終了と「通常価格」による販売となる旨を伝えるものの、販売価格に関する不満を顧客に抱かせたくないとして、当該注文者の要望があれば、今回は特別である旨を告げた上で、セール価格(その多くは「歳末特別価格」)による販売を広く行っており(なお、はがきによる注文の場合には、注文者に告げることなくセール価格による販売をしていたものもある。)、このような販売が常態化していた。

 

 原告における平成29年8月~同年12月の間の本件7商品の販売状況は、次のとおりであった。

 

 

 

販売期間

合計販売個数

通常価格での販売個数

セール価格での販売個数

商品1

平成29年9月15日~同年12月27日

4002個

10個(0.2%)

3992個(99.8%)

商品2

平成29年9月15日~同年12月30日)

9068個

15個(0.2%)

9053個(99.8%)

商品3

平成29年8月23日~同年12月28日

1万5048個

9個(0.1%)

1万5039個(99.9%)

商品4

平成29年9月15日~同年12月28日

2501個

14個(0.6%)

2487個(99.4%)

商品5

平成29年8月23日~同年12月27日

9994個

31個(0.3%)

9963個(99.7%)

商品6

平成29年9月15日~同年12月29日

8005個

6個(0.1%)

7999個(99.9%)

商品7

平成29年9月15日~同年12月27日

1500個

 9個(0.6%)

1491個(99.4%)

 

2 原告の主張

 原告は景表法5条2号に関して、以下の通り主張し、本裁判において争点となった(冒頭で記載した通り、本件では他の争点もあるが、本記事では以下に記載する争点のみ扱う。)。

 

⑴ 「一般消費者」(景表法5条2号)の意義

 

 原告は、景表法5条2号の「一般消費者」の意義に関して、健全な常識を備えた一般消費者の認識が問われるべきであることからすると、健全な常識を備えた一般消費者を意味すると解すべきである、健全な常識を備えた一般消費者は、一般に広告表示においてはある程度の誇張や単純化が行われる傾向があることを認識している、そして、このような一般消費者に誤認される表示か否かは、個別具体的に検討される必要がある、と主張した。

 

⑵ 購入意思決定後の値引きを考慮することについて

 

 原告は、過去の販売価格を表示する二重価格表示の有利誤認表示該当性の判断における販売実績の有無の判断に当たって、購入意思決定後の値引きを考慮することについて、次の通り主張した。すなわち、原告においては、一般消費者から、「通常価格」による注文を受けた際に、後日のクレームを回避するなどの趣旨の下にセール価格相当額による販売となるように事後的な値引きをしていたが、景品表示法の適用・解釈に当たっては、一般消費者の商品選択に係る自由を重視・保護すべきであって、一般消費者が販売業者による価格その他の表示に誘引されて商品購入という意思決定を行ったか否かに着目すべきであるから、いずれも一般消費者が「通常価格」によって原告が販売する本件7商品を購入する旨の選択をしたことに着目すれば足り、事後の割引を考慮することはその趣旨に反する。そうすると、上記のとおり、原告は、原告各ウェブサイト、本件カタログ等において、本件7商品について、「通常価格」として掲げた価格で販売する旨表示し、これに沿う注文を受けていたのであるから、本件各表示中における本件7商品の各「通常価格」と称する価格による販売は、いずれも原告における販売の実績があるものであったから、これらが価格表示ガイドラインにおける最近相当期間価格に当たることは明らかである。

 

3 裁判所の判断

 以上の争点について、大阪地方裁判所は次の通り判断し、原告の主張をいずれも退けた。

 

⑴ 「一般消費者」(景表法5条2号)の意義について

 

景品表示法は、商品又は労務の内容・取引条件等について消費者と事業者との間に情報や知識に大きな格差があることを踏まえ、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的とするものであるから(1条参照)、景品表示法5条2号にいう「一般消費者に誤認される表示」とは、当該商品又は役務についてそれほど詳しい情報・知識を有していない通常レベルの消費者、一般レベルの常識を有している消費者が、通常誤認を生ずる程度の表示をいうものと解される。

 

景品表示法1条に定める目的に照らせば、景品表示法5条2号の「一般消費者」について、その文言にかかわらずこれを限定的に解釈する必要があるとは解されない。

 

⑵ 購入意思決定後の値引きを考慮することについて

 

二重価格表示が「有利であると一般消費者に誤認される」と認められるか否かの判断において問題となる「一般消費者」とは、当該表示による「誤認」が問題となる一般消費者、すなわち、当該二重価格表示に接している一般消費者である。

 

そして、過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示において、一般消費者に当該表示から受ける印象・認識との間に差を生じさせ、実際より取引の相手方に著しく有利であると誤認される表示か否かという観点からみると、比較対照価格とされる「通常価格」と称する過去の販売価格としては、現実にいくらの価格によって購入・入手することができたかという販売の実態に着目すべきであって、仮に、一般消費者が交渉等を通じて割引価格による購入をすることができていたとすれば、この点を含めて考慮せざるを得ない

 

4 景表法5条2号について

 景表法5条2号は、有利誤認表示について禁止した規定であり、条文は以下のとおりである。

 

【参考】不当景品類及び不当表示防止法

第五条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。

二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

 商品又は役務の価格、料金のほか、数量、支払い条件等の取引条件について、実際よりも有利であると偽って宣伝すること等を行うと、有利誤認表示としてかかる規定に違反することとなる。

5 「一般消費者」について

 誤認の主体となるのは「一般消費者」である。

 

 かかる文言の意義に関しては、行政処分庁の担当官の見解を述べた書籍によると「景品表示法の表示規制が、商品又は役務の内容・取引条件等について消費者と事業者の間に情報や知識に大きな格差があることを踏まえて、消費者が適正な商品選択ができるよう、適正な表示を確保するために行われていることに鑑みれば、当該商品又は役務についてさほど詳しい情報・知識を有していない、通常レベルの消費者、一般レベルの常識のみを有している消費者が基準となる」とされている(西川康一「景品表示法」第6版62頁)。

6 有利誤認表示と二重価格表示

 公正取引委員会は、有利誤認表示のうち、価格表示に関しては価格表示ガイドラインを公表しており[1]、かかるガイドラインにおいて二重価格表示に関する記載もされている(なお、本事案において、原告が価格表示ガイドラインに関してセーフハーバーであると主張し、その性質が争点となっているが、裁判所は「価格表示ガイドラインは、消費者団体、小売業関係団体の代表者等を構成員とする懇談会において関係者から意見を聴取したり、実際の事例を収集して分析したりした上で、パブリックコメントも経て定められたものであるから」「その内容については、一般的な合理性を有するものであると認められる」。「景品表示法5条2号該当性を判断するに当たっては、価格表示ガイドラインが定めるところにより、最近相当期間価格に当たるか否かについて斟酌しつつ、「著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」に当たるか否かについて判断すべきである」と判示している。)。

 

 価格表示ガイドラインでは、過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示については、

 

「同一の商品について最近相当期間にわたって販売されていた価格とはいえない価格を比較対照価格に用いるときは、当該価格がいつの時点でどの程度の期間販売されていた価格であるか等その内容を正確に表示しない限り、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがある」

 

とされている(価格表示ガイドライン6頁)。

 

 さらに、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」について、

 

 a 「相当期間」については、必ずしも連続した期間に限定されるものではなく、断続的にセールが実施される場合であれば、比較対照価格で販売されていた期間を全体としてみて評価することとなる。

 b また、「販売されていた」とは、事業者が通常の販売活動において当該商品を販売していたことをいい、実際に消費者に購入された実績のあることまでは必要ではない。

 他方、形式的に一定の期間にわたって販売されていたとしても、通常の販売場所とは異なる場所に陳列してあるなど販売形態が通常と異なっている場合や、単に比較対照価格とするための実績作りとして一時的に当該価格で販売していたとみられるような場合には、「販売されていた」とはみられないものである(価格表示ガイドライン7頁)。

 

 としたうえで、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」か否かの判断基準につき、

 

 一般的には、二重価格表示を行う最近時(最近時については、セール開始時点からさかのぼる8週間について検討されるものとするが、当該商品が販売されていた期間が8週間未満の場合には、当該期間について検討されるものとする。)において、当該価格で販売されていた期間が当該商品が販売されていた期間の過半を占めているときには、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とみてよいものと考えられる。ただし、前記の要件を満たす場合であっても、当該価格で販売されていた期間が通算して2週間未満の場合、又は当該価格で販売された最後の日から2週間以上経過している場合においては、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とはいえないものと考えられる(価格表示ガイドライン7頁)。

 

 と示している。

7 本判決の意義

⑴ 「一般消費者」の意義に関する判旨について

 本訴訟では、原告が「一般消費者」の意義に関して、健全な常識を備えた一般消費者を意味すると限定的に解するべきであると主張したが、本判決は、「一般消費者」の意義に関して、先述の行政処分庁の見解を採用して、かかる主張を退けた(措置命令取消請求訴訟において「一般消費者」の意義を限定的に解するべきでないものと判示したものとして、ほかに東京地裁令和元年11月15日があげられる。)。かかる判断は、「『一般消費者』に関する積極的な意味づけを行った点に特徴がある」とされている[2]。

 

 なお、不法行為に基づく損害賠償を請求した民事事件においては、「一般に広告においてはある程度の誇張や単純化が行われる傾向があり、健全な常識を備えた一般消費者もそのことを認識しているのであるから、価格の安さを訴求する本件各表示に接した一般消費者も、かかる認識を背景に本件各表示の文言の意味を理解するものであり、そのことを前提にして検討を行うべきものである」とする裁判例がある(東京高裁平成16年10月19日)(同様に健全な常識を備えた一般消費者の認識を基準とするものとして、適格消費者団体が差し止めを求めた名古屋地裁令和元年12月26日がある。)。このように、本訴訟のような措置命令取消請求訴訟と、民事訴訟とで「一般消費者」の解釈は異なっていることに留意することが必要である。

⑵ 購入意思決定後の値引きを考慮することについて

 原告は、比較対照価格が「最近相当期間にわたって販売されていた価格」に当たるか否かを判断するにあたって、一般消費者が商品購入の意思決定をした後の値引きを考慮することは許されないと主張した。かかる主張は「最近相当期間にわたって販売されていた価格」の判断に当たって、「『販売されていた』とは、事業者が通常の販売活動において当該商品を販売していたことをいい、実際に消費者に購入された実績のあることまでは必要ではない」とする価格表示ガイドラインの見解に基づく主張であると思われる。

 

 判決は、かかる主張に対して前記のように述べて排斥した。この点に関しては「制度趣旨を潜脱する実態が存在する場合に、表示と販売実態の相違に着目した不当性の判断を行うのは不可欠である」とする評価がある[3]。

8 さいごに

 本判決においては、原告側の「一般消費者」の意義を限定して解するべきであるとの主張、購入の意思決定後の割引を考慮するべきでないとする主張のいずれも排斥されている。事業者は、広告を行う際にはこのような判断をした裁判例が存在することに留意する必要がある。

 

以 上

 

[1] https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/pdf/100121premiums_35.pdf
[2] ジュリスト1574号113頁
[3] ジュリスト1574号114頁

 

執筆者:弁護士 津城 耕右
    kosuke.tsushiro@sparkle.legal

 

本記事は、個別案件について法的助言を目的とするものではありません。
具体的案件については、当該案件の個別の状況に応じて、弁護士にご相談いただきますようお願い申し上げます。
取り上げてほしいテーマなど、皆様の忌憚ないご意見・ご要望をお寄せください。

新着記事

MENU