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公取の立入りがあった場合の対応(公正取引委員会の立入検査~独禁法違反事件への対応)

2022/11/29 12:01
公取の立入りがあった場合の対応(公正取引委員会の立入検査~独禁法違反事件への対応)

文責:弁護士 三谷 革司

 

 近時、電力会社の巨額の課徴金納付事案や、東京オリンピック・パラリンピックに関連した入札談合疑惑など、談合やカルテルによる独禁法違反事件が大きく報道されている。本稿は、公正取引委員会(以下単に「公取」という)の立入りがあった場合を想定して、その場合の対応について概略を説明するものである。

 

 公取は、事件の端緒に接した後、様々な情報源から情報を収集して内偵を進める。一方、対象事業者は、そのことを知らず、違反行為を継続している場合も少なくない。通常は、公取の立入検査または事前通知が「調査開始日」(独禁法2条の2第17号参照)とされるし、対象事業者においても、公取から突然の立入検査を受けることによって、初めて嫌疑の存在を知るということも多い。いわば「寝耳に水」という場合も多く、当日はもちろん、その後も社内で緊急体制を敷いて対応せざるを得なくなる。

公取の調査の概要

(1)概要

 公取の行う調査には、①行政調査②犯則調査がある。犯則調査は、最終的に検事総長へ刑事告発を行うことを目的とした調査である。行政調査は、独禁法の目的を達成する為に行政庁としての公取が行う調査であるが、犯則調査へと移行する場合もある。

(2)行政調査

 公取は、法令上、事件について必要な調査をするため、①事件関係人または参考人に出頭を命じて事情聴取を行ったり(法47条1項1号)、②鑑定を行ったり(同項2号)、③関係事業者の事業所内の帳簿書類その他の関係書類の提出を命じ、それらの書類を保管したり(同項3号)、④関係事業者の事業所その他必要な場所に立ち入って、業務及び財産の状況、帳簿書類その他の物件を検査することができる(同項4号)。これらの公取の調査を拒んだ場合、1年以下の懲役または300万円以下の罰金という刑事罰が課せられる可能性があり(法94条各号)、いわゆる間接強制の方法がとられている。

 

 したがって、対象事業者としては、究極的には公取の命令を拒否するという選択肢はなく、実質的には強制手続であるとも言われる。ただし、法律上はあくまで任意での対応であるから、意思決定を行う為に本来必要な説明は求めて良い。適切な防御の機会を確保する為にもそうすべきであろう。

(3)犯則調査

 公取が刑事告発相当事案と判断した事案については、犯則事件として、公取は関係者に出頭を求め、嫌疑者に対して質問をすること等ができ(法101条1項)、更に、裁判所の令状を得て、臨検、捜索または差押えをすることができる(法102条1項)。行政調査の場合と決定的に異なり、犯則調査は直接強制による手続であり、法律上これを拒むことができない。犯則調査は刑事告発を目的とした手続であり、実質的には刑事捜査であるから、被疑会社である対象事業者に刑事手続上の権利保障と同等の憲法上の権利保障が認められなければならないのは当然である。

 

 

公取の立入検査への対応

(1)公取の立入検査

 公取は、前述のとおり、関係事業者の事業所その他必要な場所に立ち入って、関係書類を検査することができる権限を有しており(法47条1項4号)、同号に基づいて行われるのが公取の立入検査である。

 

 談合やカルテル事件を念頭に置くと、公取は違反行為に参加していると疑われている各企業に、同日に、一斉に立入検査を行う。国際カルテルの事件では、当局間の協力により、全世界で一斉に手続が開始されることもある。公取が立入検査に入るのは、一般的には、調査の端緒を得て、既に情報を収集しており、違反事実と疑われる行為の存在について相当程度の心証が得られている段階である。近時は、デジタル情報が複製保存されており、リニエンシー制度を利用した他事業者から多数の証拠が提出されている場合も少なくない。ただ、そうであっても、当該事業者についての核心情報に触れられていない場合もある。立入検査の狙いは、そのような情報の獲得である。

 

 企業側では、当日の朝、突然公取から立入検査を行う旨の連絡を受けることになり、切迫した対応を迫られる。その時点までに、公取からそのような嫌疑をかけられていることすら了知していないことが多いし、公取の動きが察知されていたとしても、立入検査が行われる日時の情報までは外部に漏れないことが通常である。したがって、事前の準備ができていない状態でその日を迎えることになる。

 

 立入検査があれば、マスコミ報道もなされるのが通常である。企業側ではその対応も必要となるし、プレスリリースの準備、発信等も必要となり、まさに全社的対応が求められる。

(2)被疑事実の初期的調査と概要の把握

 

 企業側においては、何より先ず、被疑事実が何なのかを把握することが第一歩である。最初の手掛かりは、公取から指定された審査官が立入検査をする際に関係者に交付する書面であり、①事件名、②被疑事実の要旨、③関係法条が記載されている(公正取引委員会の審査に関する規則(審査規則)20条)。

 

 被疑事実の要旨の記載は、その時点における公取の事実認識を示すものとして重要である。また、立入検査を行う審査官に対して被疑事実の要旨の補足説明を求める等して、事案を把握する必要がある。そして、課徴金減免制度の対象となる事件であれば、一刻も早く減免申請を検討しなければならない(大抵、その日中には減免制度の枠は埋まってしまう)。

 

 初期対応を誤れば、その後への影響は大きく、公取の立入検査の当日に多くの対応が求められる一方で、立入検査当日は、対象となっている当該事業部門は現場で公取の書類提出の要請等に追われ、並行して主要な関与者が公取の事情聴取を受けている最中であり、適切に事実関係を把握できない可能性もある(残された者では何が起こっているかすら分からず、混乱に陥るという事態になりがちである)。公取が、事前連絡無く立入検査を行う現在の実務に対する批判はあるが、企業としては、そのような突然の立入検査も想定した上で、迅速に危機対応の体制が取れるよう規程・マニュアルを整備しておくなど、普段からの準備が肝要である。

(3)現場での対応

 公取の立入検査では、典型的には、事業所の空きスペース等に対象違反行為に関連すると思料される書類が一挙に集められ、個別にその中身を検討し、提出の要否を判断していくという作業が行われ、通常、膨大な作業量となる。立入検査では、公取は必要と思料する書類について提出命令を出した上で、事実上強制的に提出させて留置する場合(この場合、審査規則16条に基づき、留置物に係る通知書が交付される)と、対象事業者に対して任意による提出を要請して、提出された文書を留置する場合とがある。

 

 公取側としても、事業所内のどのような書類がどこに保管されているかまでは十分に把握していないであろうから、書類の取扱いは、現場での判断となる。当該事業部門においては、業務上必要な書類が公取に留置されてしまうと支障が生じる場合もあり、関連性について慎重に吟味しつつ、その書類の性質や現場の状況にもよるが、コピーを取らせてもらえる場合もあるから、遠慮せず、審査官にそのように交渉することが必要である。

 

 これらの対応は、多くの場合、法務担当者が弁護士等と相談しながら、その都度判断していくという方法にならざるを得ないだろう。公取に提出命令により留置された書類については、公取は日時、場所及び方法を指定して、対象事業者の閲覧または謄写が許されている(審査規則18条)。ただし、公取の事件の審査に特に支障が生じることとなる場合には許可されない(同条但書)。

(4)弁護士の起用

 独禁法の解釈は専門性が強い分野であり、被疑事実が重要な内容を含むと思料される場合、あるいはそうでなくても、その後の公取の対応を考えれば、独禁法分野に精通している弁護士を起用することは不可欠である。立入検査が行われることが判明した場合、すぐに弁護士に連絡し、可能であれば立入検査の現場に来てもらうか、あるいは随時連絡がつくようにしてもらい、適宜アドバイスを受けられる体制を取っておくことが望ましい。

 

 国際カルテルのような事案では、各国のローカルの弁護士において各国の当局対応を行いつつも、全体を視野に入れ統率が必要になってくる。例えば、ある国の手続き(当局対応、私訴問わず)において提出された証拠が、他国の手続に影響してしまう可能性もある。供述調書や陳述書といった書面を安易に作成してしまいがちであるが、留意が必要である。特に、秘匿特権(Privil-ege)は大多数の国で認められる法理であるが、それが失われないよう配慮が必要である。

 

公取のその後の調査への対応

(1)社内における内部調査

 公取の立入検査があった後も、引き続き、書類の提出命令が為されたり、関係者に対して事情聴取に応ずるよう要請がなされたりしながら、公取の調査は進むことになる。一方、対象事業者においても、果たしてそのような嫌疑の対象事実が存在しているのか、関与者がどの範囲か、市場への影響はどのようなものであるか、現在の状況等々について、社内で出来るだけ早急に調査を行わなければならない。そこで認められた事実に基づいて、どのようなリスク(排除措置命令、課徴金等)があるかを検討する必要がある。

 

 留意すべきであるのは、当該違反行為に従事していた従業員と、会社との間で利害対立が生じる場合があることである。当該従業員には事実聴取に協力してもらわなければならない一方で、違法行為であれば将来的には懲戒処分等も考慮しなければならない場合もあり、刑事手続に移行した場合にはその構図がより顕著になる。国際的事件では、会社の代理人弁護士が選任されるとともに、関与が疑われる従業員個人の代理人弁護士が別途選任され、当該従業員に関する防御活動は独立した代理人弁護士が会社側と連携して対応するといったプラクティスが一般的である。我が国においても、利益相反関係に鑑みるとそのような万全の体制を取ることが推奨される。

(2)公取の事情聴取への対応

 公取は、関係者に出頭を求め、事情聴取を進める。公取の質問の内容は、その時点で公取が把握している事実を示唆するものであり、また、対象事業者からどのような情報が公取にもたらされたかを確認しておかなければならない。事情聴取の内容は、可能な限り、詳細に記録に留めておくことが必要である。特に、供述調書が作成された場合、後々の重要な証拠となることに留意しなければならない。事情聴取に臨む従業員に対しては、その事情聴取の内容を十分に記憶してもらい、供述調書の内容はほぼ再現してもらう位の緊張感を求めてよい。もちろん、その従業員にとっては過度の緊張状態がしばらく継続するわけであるから、メンタル面での配慮は必要であり、本人の健康状態が良くなく事情聴取に耐えられないと思料される場合には、事情聴取の日程の変更等を相談する必要がある。また、諸外国の法制度に倣って、事情聴取に弁護士の立ち会いを求めることも十分に検討の余地がある。

(3)公取に対する情報提供について

 公取において調査が進行するのと並行して、公取が違反事実を認定するに際して事実誤認がないよう、適切な情報を提供、報告していくことが重要である。

 

 企業活動の現場では、様々な関連会社が関与する場合であったり、公取が違反事実と考えている事件も、別の側面から見れば、別の理由付けが見つかったりすることも皆無ではない。どのように市場を画定すべきかは常に問題となるし、また、特に課徴金が問題となるケースにおいては、その額は定量的に計算されるとしても、その母数の捉え方は個別性が大きい。したがって、この点においても慎重な検討をしていく必要がある。

 

公正取引委員会「独占禁止法違反被疑事件の行政調査手続の概要について(事業者等向け説明資料)(令和2年12月)」より抜粋

意見聴取の機会(排除措置命令・課徴金納付命令)

 公取は、排除措置命令をしようとする場合、事業者に対し予め意見聴取を行わなければならない(法49条、「公正取引委員会の意見聴取に関する細則」も参照)。その際、予定される排除措置命令の内容や公取の認定した事実が説明される(法54条)。また、この段階で、公取の認定した事実を立証する証拠の閲覧・謄写を求めることができる(法52条)。課徴金納付命令についてもこれらの条項が準用されている(法62条4項)。

 

 実際には、予定される排除措置命令等の草稿が交付され、文中に記載された認定事実について、どのような資料に基づいてそのような認定をしたかについて説明がある。この機会において、事業者は、事実認定に用いられた関係者の供述調書や物証、他社の報告書、関係資料等を確認する機会が与えられる。その場では、実際に下される排除措置命令等の草稿が交付され、文中に記載された認定事実について、どのような資料に基づいてそのような認定をしたかについての説明がある。この事前説明の機会において、事業者は、事実認定に用いられた関係者の供述調書や物証、他社の報告書、関係資料等を確認する機会が与えられる。

 

 会社としては、事前説明の機会において、公取の事実認定の内容及びその根拠資料をかなり具体的に把握することができるが、その中で、会社側の認識している事実と矛盾する事実が判明したり、誤った情報が提供されていたり、また、公取の法解釈に誤りがあると思料される場合もある。公取からは、意見を述べる期間が指定されるが、正当な理由があると認められる場合は、意見申述期限の延長が認められる。この意見申述は、排除措置命令等までの間に公式に公取に対して反論を行う重要な機会であり、慎重に、命令案、開示証拠等を検討する必要がある。公取は、この意見申述期間の経過後、排除措置命令または課徴金納付命令を出すこととなる。

 

 公取としては、既に認定した事実を基礎としていることから、通常はすみやかに命令が出されるが、被疑会社からの意見申述で、公取として新たに考慮しなければならない事実や論点が判明する場合もあり、期間を要する場合もある。

さいごに

 以上、公取の立入検査とその後の対応についての概略について述べたが、公取の立入検査の当日に初めてそのような弁護士や、海外の法律事務所を探すというのでは間に合わないだろう。企業活動において独禁法違反のリスクがあると考えるのであれば、立入検査が入った場合に依頼すべき弁護士について、あらかじめ一定程度以上の情報は持っておきたい。

 

【脚注】

*本記事は、月刊ローヤーズ2010年1月号掲載「公正取引委員会に違反の嫌疑をかけられた場合の対応、ある朝突然公取の立入検査が!」の記事のリメイク版である。

*公正取引委員会「独占禁止法違反被疑事件の行政調査手続の概要について(事業者等向け説明資料)(令和2年12月)」「審査手続・意見聴取手続」のページが参考になる。

*比較的軽微な法違反事例については、平成30年に「確約手続」が導入されており、適用された事例が報告されている。ただし、入札談合、受注調整、価格カルテル、数量カルテル等といった事例は対象外である(公正取引委員会「確約手続に関する対応方針」)。

 

執筆者:弁護士 三谷革司
    kakuji.mitani@sparkle.legal

 

本記事は、個別案件について法的助言を目的とするものではありません。
具体的案件については、当該案件の個別の状況に応じて、弁護士にご相談いただきますようお願い申し上げます。
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