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事例紹介:「満足度第1位」表示が景表法違反とされた事例(バンザン事件)

2023/02/16 12:40
事例紹介:「満足度第1位」表示が景表法違反とされた事例(バンザン事件)

文責:弁護士 津城耕右

 

 2023年1月12日、消費者庁は、オンライン家庭教師事業を営む株式会社バンザン(「バンザン」)に対し、優良誤認表示等を行ったとして景品表示法に基づく措置命令を行いました。この措置命令は、マスコミでも大きく取り上げられ(読売新聞ホームページ)、世間でも一定の耳目を集めました。景表法の実務においても参考となる点があることから、本記事において取り上げ、解説いたします。

 

1.事案の概要

 バンザンは、オンライン個別学習指導「メガスタ高校生」、「メガスタ医学部」、「メガスタ中学生」、「メガスタ私立」、「メガスタ小学生」(以下あわせて「本件5役務」といいます。)について、自社ウェブサイトにおいて、例えば、

 

オンライン家庭教師で利用者満足度No.1に選ばれました!

 

第1位 オンライン家庭教師 利用者満足度

 

などの表示を行いました(以下「本件表示」といいます。本件では他の表示も問題になっていますが、本記事では割愛します。)。消費者庁は、かかる表示について、優良誤認表示に該当するとし、景表法に違反すると判断しました。

 

2.景表法上の問題点

優良誤認表示の概要

 品質や価格などは、消費者が商品・サービスを選ぶ重要な基準になります。このような機能を持つ商品・サービスの品質や価格について実際よりも著しく優良又は有利と見せかける表示が行われると、消費者の適切な商品・サービスの選択が妨げられてしまいます。このため、景表法では、そのような表示を禁止しています。

 

 商品やサービスの品質、規格などの内容について、実際のものや事実に相違して競争事業者のものより著しく優良であると一般消費者に誤認される表示は、優良誤認表示として禁止されています。違反者に対しては、消費者庁は措置命令や課徴金納付命令を行うことがあります。命令の対象となった事業者の名称は公表されることとなります。

NO.1表示について

 本件で問題となったのは、いわゆる「NO.1表示」と呼ばれるものです。

 

 事業者は、自己の商品・サービスの品質の優良性や条件が、競争者と比べて有利であることを消費者に対して訴えるために、広告表示において「NO.1」、「第1位」、「日本一」などと表示することがあります。

 

 「NO.1表示」は、消費者にとって、同種の商品の内容や取引条件に関して比較を行い、又は差別化する際の明確な指標となります。このような表示を参考にすることによって、消費者は商品を選択するに際して要する時間を短縮することができたり、商品の内容や取引条件に係る情報収集の手間を削減することができます。他方で、NO.1表示は数値指標であるので、その客観性・正確性が特に重要であり、それを欠く場合には一般消費者の適正な商品等の選択を阻害するおそれがあります。商品等の内容の優良性又は取引条件の有利性を表すNO.1表示が合理的な根拠に基づかず、事実と異なる場合には、実際のもの又は競争事業者のものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認され、景表法上問題となります。

 

 問題となる表示として、典型的には「お客様満足度〇〇部門NO.1」という表示をして商品を売り出していたものの、実際は商品全体における調査ではなく、通信販売の商品における調査結果だったという場合や、ある限定された地域での調査だったにもかかわらず全国での一位であるかのように表示したという例が挙げられます。消費者庁も、平成20年にNO.1表示に関する実態調査を行い、その内容を報告しています (消費者庁HP-(平成20年6月13日)No.1表示に関する実態調査について(概要))。

 

 近年においても、株式会社PMKメディカルラボに対する措置命令(令和4年6月15日)や 株式会社ARS及び株式会社リュウセンに対する措置命令 (平成29年11月2日)、プラスワン・マーケティング株式会社に対する措置命令 (平成29年4月21日)等がみられます。このように、消費者庁は問題のあるNO.1表示に対して、厳正に対処を行っています。

 

3.本件について

消費者庁の判断の内容

 消費者庁は、本件表示について、以下のように、優良誤認表示に該当すると判断しました。

 

「バンザンが委託した事業者による調査は、回答者にバンザンが提供する本件5役務及び他の事業者が提供する同種役務の利用の有無を確認することなく実施したものであり、バンザンが提供する本件5役務及び他の事業者が提供する同種役務を利用した者の満足度を客観的な調査方法で調査したものではなかった」

 

 「オンライン家庭教師で利用者満足度No.1に選ばれました!」「第1位 オンライン家庭教師 利用者満足度」という表示は、本件5役務やその他のオンライン家庭教師サービスを利用したことがある者に対してその満足度を調査したところ、本件5役務の満足度が最も高いという結果が出た、ということであるとうかがわれます。しかし、かかる判断内容や一部の報道内容からするに、調査を受託した事業者は実際にサービスを利用したことがあるかの確認を取らずに調査を実施していたものと考えられます。

景表法上問題のないと考えられるNO.1表示について

 先述の消費者庁によるNO.1表示に関する実態調査の報告書において、景表法上適切なNO.1表示が不当表示とならないためには、①NO.1表示の内容が客観的な調査に基づいていること、②調査結果を正確かつ適正に引用していること、の両方を満たす必要があるとされています。さらに①を満たすには、a当該調査が関連する学術界又は産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法によって実施されていること、又は、b社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法で実施されていることが必要であるとされています。

 

 また、②に関しては、NO.1表示は直近の調査結果に基づいて表示するとともに、対象となる商品等の範囲、地理的範囲、調査期間・時点、調査方法、調査の出典等についても、調査の事実に即して明瞭に表示するよう留意する必要があります。

 

①NO.1表示の内容が客観的な調査に基づいていること

・当該調査が関連する学術界又は産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法によって実施されていること

・社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法で実施されていること

②調査結果を正確かつ適正に引用していること ・直近の調査結果に基づいて表示するとともに、対象となる商品等の範囲、地理的範囲、調査期間・時点、調査方法、調査の出典等についても、調査の事実に即して明瞭に表示する

 

 本件では、いずれの表示にも「利用者満足度」という文言が含まれており、その表示内容からすれば、消費者はオンライン家庭教師サービスを利用した者を対象として行ったアンケート等の調査による結果に基づく表示であると誤信します。調査対象が本件5役務や他のオンライン家庭教師サービスを利用したことがある者に対して行われていなかったとすれば、適切な表示となる要件は満たさないこととなるものと考えられます。

 

 また、3⑵で紹介した過去事例のうち株式会社ARS及び株式会社リュウセンに対する措置命令とプラスワン・マーケティング株式会社に対する措置命令は、消費者庁が景表法第7条2項の規定に基づく資料の提出を求めた結果、そのような資料が提出されなかったことを理由として措置命令がなされています。

 

 NO.1表示を行うことを検討する際には、調査を委託した事業者の調査の方法を含めた調査の内容が、表示の内容と適切に合致するものであるかを含めて慎重な検討を行うことが必要であるといえます。

さいごに

 NO.1表示は、強い顧客誘引力を持つ魅力的な広告方法である一方で、適切な表示を行わないと景表法上の問題を生じることとなります。消費者庁から処分を受けると、事業者名も公開されることとなるため、NO.1表示の適否は慎重に検討することが必要になります。

 

執筆者:弁護士 津城 耕右
    kosuke.tsushiro@sparkle.legal

 

本記事は、個別案件について法的助言を目的とするものではありません。
具体的案件については、当該案件の個別の状況に応じて、弁護士にご相談いただきますようお願い申し上げます。
取り上げてほしいテーマなど、皆様の忌憚ないご意見・ご要望をお寄せください。

 

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