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令和4年民事訴訟法改正(民事裁判のIT化)

2022/06/10 13:57
令和4年民事訴訟法改正(民事裁判のIT化)

 2022年5月18日、民事訴訟法等の一部を改正する法律案が参議院で可決成立し、同月25日に公布された。同法は、民事裁判手続のIT化を主たる内容とするものである。以下、主な改正内容について、改正法の条文とともに紹介する。

 

【改正のポイント】
1.eファイリング(e提出)
2.eコート(e法廷)
3.eケースマネジメント(e事件管理)

 

1.eファイリング(e提出)-民事訴訟手続の提出の局面

(1)オンライン提出

(電子情報処理組織による申立て等)
第132条の10

1 民事訴訟に関する手続における申立てその他の申述(以下「申立て等」という。)のうち、当該申立て等に関するこの法律その他の法令の規定により書面等(書面、書類、文書、謄本、抄本、正本、副本、複本その他文字、図形等人の知覚によって認識することができる情報が記載された紙その他の有体物をいう。以下この章において同じ。)をもってするものとされているものであって、裁判所に対してするもの(※中略)については、当該法令の規定にかかわらず、最高裁判所規則で定めるところにより、最高裁判所で定める電子情報処理組織を使用して当該書面等に記載すべき事項をファイルに記録する方法により行うことができる。

2 前項の方法によりされた申立て等(以下この条において「電子情報処理組織を使用する申立て等」という。)については、当該申立て等を書面等をもってするものとして規定した申立て等に関する法令の規定に規定する書面等をもってされたものとみなして、当該法令その他の当該申立て等に関する法令の規定を適用する。

 

(電子情報処理組織による申立て等の特例)

第132条の11

 次の各号に掲げる者は、それぞれ当該各号に定める事件の申立て等をするときは、前条第1項の方法により、これを行わなければならない。ただし、口頭ですることができる申立て等について、口頭でするときは、この限りでない。

 訴訟代理人のうち委任を受けたもの(第54条第1項ただし書の許可を得て訴訟代理人となったものを除く。) 当該委任を受けた事件

二~三 (省略)

2 前項各号に掲げる者は、第109条の2第1項ただし書の届出をしなければならない。

 

(※下線部は改正箇所)

 

 改正法の下では、全ての裁判所において、訴えの提起等をオンラインにより行うこと(条文上は、「電子情報処理組織を使用して当該書面等に記載すべき事項をファイルに記録する方法」とされている。)ができるとされているところ(132条の10第1項)(※条数は改正後。以下同じ。)、弁護士等の訴訟代理人は、訴えの提起等を当該方法により「行わなければならない」とされ(132条の11第1項1号)、事実上、オンライン申立てが義務付けられた

 

 改正に係る審議の中で、IT弱者に配慮する必要があることが指摘され、本人訴訟の場合には、従来どおり、書面等による申立てが認められることとなっている。

 

 なお、現行民事訴訟法においても、法令の規定により書面等をもって申立て等をするものについて、オンラインでの申立てを可能とする規定(現行132条の10)がある。かつて、札幌地裁において試行が行われていたことがあるが、その後は事実上利用されることがなかった。2022年1月14日、民事訴訟法第132条の10第1項に規定する電子情報処理組織を用いて取り扱う民事訴訟手続における申立てその他の申述等に関する規則(令和4年最高裁判所規則第1号)が公布、同規則施行細則(令和4年最高裁判所告示第1号)が告示された。そして、これらの最高裁判所規則に対応する形で、民事裁判書類電子提出システム(mints)が開発された。mintsは、現行民事訴訟法の枠組みの中でeファイリングの一部を先行実施することを意図して開発され、現在一部の裁判所で試行運用が開始している。

 

(2)システム送達

 

第3款 電磁的記録の送達

(電磁的記録に記録された事項を出力した書面による送達)

第109条

電磁的記録の送達は、特別の定めがある場合を除き、前款の定めるところにより、この法律その他の法令の規定によりファイルに記録された送達すべき電磁的記録(以下この節において単に「送達すべき電磁的記録」という。)に記録されている事項を出力することにより作成した書面によってする。

 

(電子情報処理組織による送達)

第109条の2

 電磁的記録の送達は、前条の規定にかかわらず、最高裁判所規則で定めるところにより、送達すべき電磁的記録に記録されている事項につき次条第1項第1号の閲覧又は同項第2号の記録をすることができる措置をとるとともに、送達を受けるべき者に対し、最高裁判所規則で定める電子情報処理組織を使用して当該措置がとられた旨の通知を発する方法によりすることができる。ただし、当該到達を受けるべき者が当該方法により送達を受ける旨の最高裁判所規則で定める方式による届け出をしている場合に限る。

 前項ただし書の届出をする場合には、最高裁判所規則で定めるところにより、同項本文の通知を受ける連絡先を受訴裁判所に届け出なければならない。この場合においては、送達受取人をも届け出ることができる。

 

(電子情報処理組織による送達の効力発生の時期)

第109条の3

 前条第1項の規定による送達は、次に掲げる時のいずれか早い時に、その効力を生ずる。

 送達を受けるべき者が送達すべき電磁的記録に記録されている事項を最高裁判所規則で定める方法により表示をしたものの閲覧をした時

 送達を受けるべき者が送達すべき電磁的記録に記録されている事項についてその使用に係る電子計算機に備えられたファイルへの記録をした時

 前条第1項本文の通知が発せられた日から1週間を経過した時

 送達を受けるべき者がその責めに帰することができない事由によって前項第1号の閲覧又は同項第2号の記録をすることができない期間は、同項3号の期間に算入しない。

 

(電子情報処理組織による送達を受ける旨の届出をしなければならない者に関する特例)

第109条の4

 第109条の2第1項ただし書の規定にかかわらず、第132条の11第1項各号に掲げる者に対する第109条の2第1項の規定による送達は、その者が同行ただし書の届出をしていない場合であってもすることができる。この場合においては、同項本文の通知を発することを要しない。

 前項の規定により送達をする場合における前条の規定の適用については、同条第1項第3号中「通知が発せられた」とあるのは、「措置がとられた」とする。

 

 オンライン申立てにより提出された訴状等の送達は、原則として書面として出力されて送達される(109条)。もっとも、送達を受けるべき者がオンラインでの通知による送達システム送達)を受ける旨の届出をしている場合、システム送達により行うことが認められる(109条の2)。システム送達は、通知を受けた者が事件管理システムにアクセスして電子書類の閲覧・複製をした時、又は通知が発せられた日から1週間が経過したときに効力を生ずる(109条の3第1項)。

 

 そして、弁護士等の訴訟代理人にはシステム送達を受ける旨の届出をすることが義務付けられる(132条の11第2項・109条の2第1項ただし書)。そのため、弁護士等の訴訟代理人は、必然的にシステム送達の対象となる。なお、弁護士等の訴訟代理人が当該届出をしていない場合、通知に代えて、オンラインでの閲覧・記録ができる措置がとられたことをもって送達があったものとされる(109条の4第1項後段、2項)。

 

 なお、オンライン提出及びシステム送達を利用するに当たり、事件管理システムに登録することが必要となる。事件管理システムは、裁判所に構築されることが予定されており、民事訴訟法改正時の資料(中間試案の補足説明)によると、概要、次のようなものが想定されている。

    • 利用者は、事件管理システムを利用するために裁判所から通知を受けるためのメールアドレス等(通知アドレス)の届出をしてアカウントを取得する(原告であれば訴え提起時、被告であれば訴状受領時又は答弁書提出時が一般的に想定されるが、個別事件の存否にかかわらず登録をすることも可能である。)。
    • 利用者は、事件管理システムのサーバに訴状、準備書面及び証拠となるべきものの写しのデータをインターネットを利用して記録することにより、裁判所に裁判資料を提出する。
    • サーバに裁判資料が記録されたことが相手方当事者に通知され、相手方当事者はサーバにアクセスして記録されたデータを閲覧・ダウンロードすることによってその内容を覚知する。
  • (上記、法務省民事局参事官室「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案の補足説明」ⅴ用語の説明(2021年2月19日)参照(https://www.moj.go.jp/content/001342958.pdf))

 

2.eコート(e法廷)―民事訴訟手続の法廷の局面

(1)口頭弁論・争点整理手続のIT化

 

(映像と音声の送受信による通話の方式による口頭弁論等)

第87条の2

裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、口頭弁論期日における手続を行うことができる。

 裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、審尋の期日における手続を行うことができる。

 前2項の期日に出頭しないでその手続に関与した当事者は、その期日に出頭したものとみなす。

 

(弁論準備手続における訴訟行為等)

第170条

3 裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、弁論準備手続の期日における手続を行うことができる。

 

(書面による準備手続の開始)

第175条

裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、事件を書面による準備手続(当事者の出頭なしに準備書面の提出等により争点及び証拠の整理をする手続をいう。以下同じ。)に付することができる。

 

(書面による準備手続の方法等)

第176条

 裁判所は、書面による準備手続を行う場合において、必要があると認めるときは、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、争点及び証拠の整理に関する事項その他口頭弁論の準備のため必要な事項について、当事者双方と協議することができる。この場合においては、協議の結果を裁判所書記官に記録させることができる

 

 改正法の下では、当事者双方が現実に裁判所に出頭しないままウェブ会議等(映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法)に参加する方法により、口頭弁論(87条の2第1項)、弁論準備手続(170条3項)及び書面による準備手続(176条2項)をすることができる。

 

 現行法では、口頭弁論についてウェブ会議等によることを認められておらず、当事者が現実に出頭しなければならない。これに対し、改正法は、裁判所が「相当と認めるとき」にウェブ会議等により口頭弁論を行うことができるとする(87条の2第1項)。

 

 なお、口頭弁論の公開主義(憲法82条1項)の観点から、裁判官は現実の法廷に所在し、裁判所及び当事者双方が映像と音声の送受信により通話している状況を一般人が傍聴することができるという状況が前提とされている(法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会「第3回会議議事録」7頁〔大野発言〕(2020年9月11日))(https://www.moj.go.jp/content/001333396.pdf)。一方、インターネット中継等により口頭弁論が公開されると、当事者のプライバシー等が不特定多数の者に知らわたることとなるため、口頭弁論のインターネット中継等による公開については現時点では許容する規律も禁止する規律も設けないこととされた(法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会「部会資料5 口頭弁論、争点整理手続等、特別な訴訟手続、証人尋問等」6頁(2020年9月11日))(https://www.moj.go.jp/content/001328515.pdf)。

 

 現行法において弁論準備手続を電話会議等により行うことができるのは、①「当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるとき」に、②「当事者の一方がその期日に出頭した場合」に限られる(現170条3項)。改正法は、裁判所が「相当と認めるとき」に電話会議等による弁論準備手続を認め、遠隔地要件及び一方当事者出頭要件を廃止した(170条3項)。

 

 また、現行法における書面による準備手続については、①「裁判所」が「当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるとき」に事件が書面による準備手続に付され(現175条)、②「裁判長等」が「必要があると認めるときは」電話会議等によることができるとされており(現176条3項)、③その手続の主宰者は裁判長とされている(現176条1項)。改正法においては、①「裁判所」が「相当と認めるとき」に事件が書面による準備手続に付され(改正175条)、②「裁判所」が「必要があると認めるときは」に電話会議等によることができ(改正176条2項)、③裁判所が手続を行うことができるとされた。

 

 これらの規定は、公布の日から2年以内に施行される(民事訴訟法等の一部を改正する法律附則1条4号)。

 

(2)ウェブ会議等による尋問

 

(裁判所外における証拠調べ)

第185条

 裁判所(第1項の規定により職務を行う受命裁判官及び前2項に規定する嘱託により職務を行う受託裁判官を含む。)は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、第1項の規定による証拠調べの手続を行うことができる。

 

(映像等の送受信による通話の方法による尋問)

第204条

裁判所は、次に掲げる場合であって、相当と認めるときは、最高裁判所規則で定めるところにより、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、証人の尋問をすることができる。

一 証人の住所、年齢又は心身の状態その他の事情により、証人が受訴裁判所に出頭することが困難であると認める場合

二 (略)

 当事者に異議がない場合

 

 当事者に異議がなく、相当と認められるときは、ウェブ会議等による尋問が可能となった(204条3号)。現行204条を受けた民事訴訟規則123条1項及び2項は、ウェブ会議等を利用した証人尋問を行う場合について、証人が官署としての裁判所に出頭することを求めている。改正法は、裁判所が相当と認めれば、当事者の意見を聴いて、裁判所外でウェブ会議等を用いた証拠調べをできるとしており(185条3項)、これを前提に証人が裁判所以外の場所に所在しながらウェブ会議等による尋問を実施することができるよう民事訴訟規則も改正される予定である。

 

 部会においては、①当事者本人又はその代理人の在席する場所でないこと、②裁判所が証人の陳述の内容に不当な影響を与えるおそれがあると認める者の在席する場所でないことを要件にするという案が出されるなどした(法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会「部会資料24 民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する要綱案の取りまとめに向けた検討1」8頁(令和3年9月24日)(https://www.moj.go.jp/content/001356553.pdf)。

 

(3)ファスト・トラック(法定審理期間訴訟手続)

 

第7編 法定審理期間訴訟手続に関する特則

(法定審理期間訴訟手続の要件)

第381条の2

当事者は、裁判所に対し、法定審理期間訴訟手続による審理及び裁判を求める旨の申出をすることができる。ただし、次に掲げる訴えに関しては、この限りでない。

 消費者契約に関する訴え

 個別労働関係民事紛争に関する訴え

 当事者の双方が前項の申出をした場合には、裁判所は、事案の性質、訴訟追行による当事者の負担の程度その他の事情に鑑み、法定審理期間訴訟手続により審理及び裁判をすることができる当事者間の公平を害し、又は適正な審理の実現を妨げると認めるときを除き、訴訟を法定審理期間訴訟手続により審理及び裁判をする旨の決定をしなければならない。当事者の一方が同項の申出をした場合において、相手方がその法定審理期間訴訟手続による審理及び裁判をすることに同意したときも、同様とする。

 

(法定審理期間訴訟手続の審理)

第381条の3

前条第2項の決定があったときは、裁判長は、当該決定の日から2週間以内の間において口頭弁論又は弁論準備手続の期日を指定しなければならない。

 裁判長は、前項の期日において、当該期日から6月以内の間において当該事件に係る口頭弁論を終結する期日を指定するとともに、口頭弁論を集結日から1月以内の間において判決言渡しをする期日を指定しなければならない。

 前条第2項の決定があったときは、当事者は、第1項の期日から5月(裁判所が当事者双方の意見を聴いて、これより短い期間を定めた場合には、その期間)以内に、攻撃又は防御の方法を提出しなければならない。

 

(通常の手続への移行)

第381条の4

次に掲げる場合には、裁判所は、訴訟を通常の手続により審理及び裁判をする旨の決定しなければならない。

 当事者の双方又は一方が通常の手続に移行させる旨の申出をしたとき。

 提出された攻撃又は防御の方法及び審理の現状に照らして法定審理期間訴訟手続により審理及び裁判をするのが困難であると認めるとき。

 

(控訴の禁止)

第381条の6

法定審理期間訴訟手続の終局判決に対しては、控訴をすることができない。ただし、訴えを却下した判決に対しては、この限りでない。

 

(異議)

第381条の7

法定審理期間訴訟手続の終局判決に対しては、訴えを却下した判決を除き、電子判決書の送達を受けた日から2週間の不変期間内に、その判決をした裁判所に異議を申し立てることができる。ただし、その期間前に申し立てた異議の効力を妨げない。

 

(異議後の審理及び裁判)

第381条の8

適法な異議があったときは、訴訟は、口頭弁論の終結前の程度に服する。この場合においては、通常の手続によりその審理及び裁判をする。

 

 当事者双方が希望する場合に法定の一定期間内に裁判所が判断を示す手続である法定審理期間訴訟手続が新設された(381条の2)。

 

 当事者双方の申出又は当事者の一方の申出と相手方の承諾があった場合、裁判所が法定審理期間訴訟手続により審理・裁判をする旨を決定する(381条の2第2項)。裁判所は、当該決定がされた日から2週間以内の間において口頭弁論等の期日を指定し(381条の3第1項)、当該期日から6か月以内に弁論を終結し、その後1か月以内に判決がされる(同条2項)。

 

 当事者の双方又は一方が通常の手続に移行させる旨の申出をした場合及び攻撃防御方法や審理の現状に照らして法定審理期間訴訟手続によることが困難であると認められる場合、裁判所は訴訟を通常の手続により審理・裁判をする旨の決定をしなければならない(381条の4第1項)。当事者は、却下判決以外の終局判決に対して控訴をすることができないが(381条の6)、判決の送達から2週間以内に異議の申立てをすることで、訴訟を通常の手続に服することができる(381条の7第1項、381条の8第1項)。なお、類型的に証拠の偏在、経済力の格差が認められる事件は法定審理期間訴訟手続の対象外とされている(381条の2第1項各号)。

 

 部会においては、当事者双方が訴訟代理人を選任していることを要件とすべきか否かという点について議論がされた。訴訟代理人の選任がない場合は、特段の事情がない限り、「当事者間の公平を害し、又は適正な審理の実現を妨げると認めるとき」に当たると解されるため、当事者からの申出や当事者双方の同意があったとしても、法定審理期間訴訟手続により審理及び裁判をする旨の決定をすることができないと解されている。一方で、訴訟代理人を選任していない者が法人であり、法務担当者等を備えているケースなど、訴訟代理人が選任されているのと同視し得るような場合があり得ることも指摘されている。(法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会「部会資料30 民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する要綱案(案)2(補足説明付き)」7頁(https://www.moj.go.jp/content/001361991.pdf))。

 

3.eケースマネジメント(e事件管理)―民事訴訟手続の事件管理の局面

(1)訴訟記録の電子化

 

(期日の呼出し)

第94条

期日の呼出しは、次の各号のいずれかに掲げる方法その他相当と認める方法によってする。

 ファイルに記録された電子呼出状(裁判所書記官が、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判長が指定した期日に出頭すべき旨を告知するため出頭すべき者において出頭すべき日時及び場所を記録して作成した電磁的記録をいう。次項及び第256条第3項において同じ。)を出頭すべき者に対して送達する方法

 裁判所書記官は、電子呼出状を作成したときは、最高裁判所規則で定めるところにより、これをファイルに記録しなければならない。

 

(公示送達の方法)

第111条

公示送達は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める事項を最高裁判所規則で定める方法により不特定多数の者が閲覧することができる状態に置く措置をとるとともに、当該事項が記載された書面を裁判所の掲示場に掲示し、又は当該事項を裁判所に設置した電子計算機の映像面に表示したものの閲覧をすることができる状態に置く措置をとることによってする。

 電磁的記録の公示送達 裁判所書記官が、送達すべき電磁的記録に記録された事項につき、いつでも送達を受けるべき者に第109条の書面を交付し、又は第109条の2第1項本文の規定による措置をとるとともに、同項本文の通知を発すべきこと。

 

(書面等による申立て等)

第132条の12

申立て等が書面等により行われたとき(前条第1項の規定に違反して行われたときを除く。)は、裁判所書記官は、当該書面等に記載された事項(次の各号に掲げる場合における当該各号に定める事項を除く。)をファイルに記録しなければならない。ただし、当該事項をファイルに記録することにつき困難な事情があるときは、この限りでない。

 

(電子判決書)

第252条

裁判所は、判決の言渡しをするときは、最高裁判所規則で定めるところにより、次に掲げる事項を記録した電磁的記録(以下「電子判決書」という。)を作成しなければならない。

 

 前述のとおり、弁護士等が訴訟代理人として裁判書類を提出する場合、オンラインでの提出が義務付けられる(132条の11第1項1号)。さらに、電子呼出状による期日の呼出し(94条1項1号、2項)、電磁的記録の送達(109条、109条の2)、公示送達(111条2号)及び電子判決書の導入(252条1項)等の規定が置かれ、訴訟記録は原則として電磁的に記録することとされた。

 

 また、書面等により申立てが行われた場合であっても、裁判所書記官が当該書面等の記載された事項を電子化して記録することとされている(132条の12第1項)。

 

(2)裁判所外の端末からの電磁的訴訟記録の閲覧等

 

(電磁的訴訟記録の閲覧等)

第91条の2

何人も、裁判所書記官に対し、最高裁判所規則で定めるところにより、電磁的訴訟記録(訴訟記録中この法律その他の法令の規定により裁判所の使用に係る電子計算機(入出力装置を含む。以下同じ。)に備えられたファイル(次項及び第3項、次条並びに第109条の3第1項第2号を除き、以下単に「ファイル」という。)に記録された事項(第132条の7及び第133条の2第5項において「ファイル記録事項」という。)に係る部分をいう。以下同じ。)の内容を最高裁判所規則で定める方法により表示したものの閲覧を請求することができる。

 

2 当事者及び利害関係を疎明した第三者は、裁判所書記官に対し、電磁的訴訟記録に記録されている事項について、最高裁判所規則で定めるところにより、最高裁判所規則で定める電子情報処理(裁判所の使用に係る電子計算機と手続の相手方の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。以下同じ。)を使用してその者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法その他の最高裁判所規則で定める方法による複写を請求することができる。

 

 当事者及び利害関係を疎明した第三者は、電磁的訴訟記録を裁判所外の端末から閲覧及び複写することができる(91条の2第1項、2項)。これに合わせて、最高裁判所規則において、①誰でも裁判所設置端末を用いた閲覧を請求することができ、②当事者及び利害関係を疎明した第三者は裁判所設置端末及び裁判所外端末を用いた閲覧等を請求することができ、③当事者はいつでも事件の係属中に裁判所外端末を用いた閲覧又は複写をすることができるという内容の規律が設けられる予定である。

 

4.その他

(1)訴状における住所、氏名等の秘匿

 

(申立人の住所、氏名等の秘匿)

第133条

申立て等をする者又はその法定代理人の住所、居所その他その通常所在する場所(以下この項及び次項において「住所等 」という。)の全部又は一部が当事者に知られることによって当該申立て等をする者又は当該法定代理人が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあることにつき疎明があった場合には、裁判所は、申立てにより、決定で、住所等の全部又は一部を秘匿する旨の裁判をすることができる。申立て等をする者又はその法定代理人の氏名その他当該者を特定するに足りる事項 (次項において「氏名等 」という。)についても、同様とする。

 前項の申立てをするときは、同項の申立て等をする者又はその法定代理人(以下この章において「秘匿対象者」という。)の住所等又は氏名等(次条第2項において「秘匿事項」という。)その他最高裁判所規則で定める事項を書面により届け出なければならない。

 

 改正法においては、犯罪被害者等が訴えを提起する際にその住所等や氏名等を訴状に記載しないことを可能とするなどして、その住所等や氏名等を相手方当事者に秘匿することができることとされた(133条1項)。

 

 現行法では、当事者及び法定代理人の住所、氏名等が訴状の必要的記載事項とされており(現133条2項1号)、閲覧謄写等制限決定の対象となった情報も相手方当事者に対しては開示されているところ、犯罪被害者等が加害者等に住所等や氏名等を知られることを恐れて、加害者等に対する損害賠償請求訴訟を提起することを躊躇することがあり得るとの指摘がある。

 

 そこで、申立人又はその法定代理人の住所等や氏名等の全部又は一部が当事者に知られることによって社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあることの疎明がある場合には、申立てにより、裁判所の決定で住所や氏名等の全部又は一部を秘匿する旨の裁判をすることができるとされた(133条1項)。申立人又はその法定代理人は、必要的記載事項のうち秘匿措置を求める部分(以下「秘匿事項」という。)の記載を省いた訴状を提出するとともに、裁判所に対しては秘匿事項を記載した所定の様式の書面(原告表示書面)を提出しなければならない(同条2項)。

 

(秘密保護のための閲覧等の制限)

第92条

 第1項の申立て(同項第1号に掲げる事由があることを理由とするものに限る。次項及び第8項において同じ。)があった場合において、当該申立て後に第三者がその訴訟への参加をしたときは、裁判所書記官は、当該申立てをした当事者に対し、その参加後直ちに、その参加があった旨を通知しなければならない。ただし、当該申立てを却下する裁判が確定したときは、この限りでない。

 前項本文の場合において、裁判所書記官は、同項の規定による通知があった日から2週間を経過する日までの間、その参加をした者に第1項の申立てに係る秘密記載部分の閲覧等をさせてはならない。ただし、第133条の2第2項の申立てがされたときは、この限りでない。

 前二項の規定は、第6項の参加をした者に第1項の申立てに係る秘密記載部分の閲覧等をさせることについて同項の申立てをした当事者の全ての同意があるときは、適用しない。

 

 また、補助参加人の閲覧等について、閲覧謄写等制限の申立て(現92条1項)があった後に第三者が補助参加をした場合、裁判所書記官は申立人に対して直ちに補助参加があった旨を通知しなければならず(92条6項本文)、通知後2週間を経過するまでは当該補助参加人に対して秘匿事項の閲覧等をさせてはならないとされた(同条7項本文)。

 

(2)補助参加人に対する閲覧謄写等制限

 

(補助参加人の訴訟行為等)

第45条

 次に掲げる請求に関する規定の適用については、補助参加人(当事者が前条第1項の異議を述べた場合において補助参加を許す裁判が確定したもの及び当事者が同条第2項の規定により異議を述べることができなくなったものに限る。)を当事者とみなす。

 非電磁的訴訟記録(第91条第1項に規定する非電磁的訴訟記録をいう。)の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは法本の交付又はその複製(第92条第1項において「非電磁的訴訟記録の閲覧等」という。)の請求

 電磁的訴訟記録(第91条第1項に規定する電磁的訴訟記録をいう。)の閲覧若しくは複写又はその内容の全部若しくは一部を証明した書面の交付若しくはその内容の全部若しくは一部を証明した電磁的記録の提供(第91条第1項において「電磁的訴訟記録の閲覧等」という。)の請求

 第91条の3に規定する訴訟に関する事項を証明した書面の交付又は当該事項を証明した電磁的記録の提供の請求

 

 現行法において、補助参加の申出をした者は、補助参加の要件がないと確定するまでの間、当事者として扱われ、訴訟記録の全てを閲覧謄写等することができる。そのため、補助参加の利益がない第三者により補助参加の申出が濫用され、閲覧謄写等制限決定の対象となった情報が閲覧されるという弊害が生じるとの指摘がある。さらに、改正法が施行されれば、当事者は裁判所外の端末を用いて訴訟記録を閲覧することが可能になるため(91条の2第2項)、上記の弊害はより大きいものとなる。

 

 そこで、改正法は、補助参加を許す裁判が確定し又は当事者が異議を述べることができなくなるまでは、補助参加人を当事者とみなさないこととし(45条5項柱書括弧書)、第三者として訴訟記録の閲覧等の請求することができるにとどめることとされた(同項1号ないし3号)。これらの規定は、公布の日から9か月以内に施行される(民事訴訟法等の一部を改正する法律附則1条2号)。

 

5.3つのeの実現スケジュール

 改正法は、原則として、公布の日(2022年5月25日)から4年以内に施行される。前述のとおり、訴状における秘匿制度や閲覧等の制限の規定については公布の日から9か月以内、ウェブ会議等を利用した口頭弁論を定める87条の2については公布の日から2年以内に施行されるものとされている。その他の規定の施行については、改正法において具体的なスケジュールは定められていない。

 

 もっとも、民事裁判手続の全面IT化は、3つのフェーズに分けて、順次実現していくことが予定されているところ(内閣官房「成長戦略フォローアップ」67頁以下(2020年7月17日)(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/fu2020.pdf))、改正法の施行もこれに合わせて行われるものと予想される。

 

 既にフェーズ1として、2020年2月、現行法の下で可能なウェブ会議等を利用した争点整理手続の運用が開始された(e法廷の一部の先行実施)。現在、すべての地裁本庁でMicrosoft Teamsを利用して、当事者双方が出頭しないまま争点整理手続が実施されている(2022年7月までにすべての地裁支部でも運用が開始され、状況を見て高裁等でも運用が開始される予定である。)。また、2022年4月以降、一部の裁判所を対象にmintsの運用が開始され、e提出の一部が先行実施されている(フェーズ3の一部の先行実施)。

 

 フェーズ2としては、関係法令の改正により初めて実現可能となるウェブ会議等を利用した弁論・争点整理手続等の運用が開始される。2022年度中に非公開手続に関するe法廷の運用が開始され、2023年度中に公開手続に関するe法廷の運用が開始される予定である。

 

 フェーズ3としては、2025年度中に、事件管理システムを構築した上で、訴状を含めたすべての事件記録についてe提出及びe事件管理の運用が開始される予定である。

 

             以 上

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