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事例紹介:三ツ星事件(有事導入型の買収防衛策に基づく新株予約権無償割当てが不公正発行とされた事例)

2022/08/04 12:10
事例紹介:三ツ星事件(有事導入型の買収防衛策に基づく新株予約権無償割当てが不公正発行とされた事例)

 本件は、投資家グループが市場で株式を買い集め、現経営陣の解任を求めて株主総会招集請求などを行うなど、買収に向けた動きを仕掛けたのに対し、会社側が事前警告型の買収防衛策を導入したうえで、対抗措置として差別的行使条件の付された新株予約権の無償割当てを発動したことから、買収者側の株主が、当該新株予約権無償割当てについて、①株主平等原則違反、②著しく不公正な方法による発行であるとして、会社法247条1号及び2号の類推適用に基づき、差止の仮処分を求めた事案である。大阪地裁は、2022年7月1日、買収者側の申立てに理由があると認め、新株予約権無償割当ての差止めの仮処分命令を認めた。また、その後の保全異議審(大阪地裁)、保全抗告審(大阪高裁)、最高裁でも、株主側の主張が認められた。

 

 本件の買収防衛策は、いわゆる有事導入型であり、独立委員会の勧告に基づいて新株予約権の無償割当ての発動(本件対抗措置)を決定し、株主意思確認総会の決議も得て発動したにもかかわらず、著しく不公正な方法による発行であるとして、株主側の主張を認めたという点において注目すべき事案であると思われる。以下、速報的に、内容を紹介する。なお、本記事の作成に際しては、会社のHP、投資家グループのHPを参照した。本件はまだ進行中の案件であり、今後の展開も注目される。(以下、太字・下線部分は執筆者によるものである。)

 

1.事案の概要

 舞台となっているのは、大阪を本社とするキャブタイヤケーブルの大手メーカーである株式会社三ツ星である。

 

 仮処分を申立てた株主は、2021年7月30日から会社の株式を市場内で取得し始め、同年10月4日頃までに約8万株(約7%)を取得していた。ただし、大量保有報告書を最初に提出したのは、2022年3月11日であった。また、同株主の関係者らと思われる複数の株主らが、2021年10月1日頃から2022年3月31日にかけて、会社の株式を取得しており、2022年3月31日時点で、関係者らが保有する会社株式の持株比率は合計21.63%となっていた。なお、投資家グループ側は、2022年2月にも株主総会の招集請求を行っており、5月に臨時株主総会が開催されていた。以下、主な時系列である。

 

2022年2月22日 買収者が会社に臨時株主総会招集請求
2月26日 買収者が会社に株主名簿閲覧謄写請求
3月29日 会社が質問事項への回答と一定の事項を誓約した書面の提出を条件に株主名簿閲覧謄写請求に応じる旨を主張
3月31日  買収者が247,800株(所有割合:21.63%)を買い集める
4月1日 買収者が大阪地方裁判所に株主名簿閲覧謄写仮処分命令の申立て
4月8日 取締役会にて取締役全員の賛成により以下を決議
①「会社の支配に関する基本方針」
②「株式の大規模買付行為等への対応策(「本対応方針」)」
4月11日  大阪地方裁判所が株主名簿閲覧謄写を認める仮処分決定
4月22日 買収者が委任状勧誘の手法について誓約書を提出したため、会社側が名簿閲覧謄写請求に応じる
5月12日

臨時株主総会にて下記議案が否決。ただし賛成率46%の賛成票を得た
・現行取締役3名の解任
・新規取締役3名・監査等委員である取締役1名の選任

5月18日 取締役会にて新株予約権無償割当の実行を決議
6月1日
買収者が新株予約権無償割当差止仮処分命令を大阪地裁に申立て
6月24日
定時株主総会にて会社提案が承認され、株主提案が否決

 

2.買収防衛策(本件対応方針)の内容

 会社側の取締役会は、2022年4月8日、大規模買付行為者に対して必要かつ十分な情報の提供を求めるとともに、これを取締役会が評価し、大規模買付者との交渉や株主への代替案の提示等を行う期間を確保することを目的として、買収者・その関係者らを対象として、対応方針(本件対応方針)を決議し、公表した。また、取締役会の恣意的な判断を防止し、本件対応方針の運用の公正性・客観性を担保するために、社外取締役らによって構成される独立委員会を設置した。

 

 本件対応方針は、他の事例でも採用されている有事導入型の買収防衛策と、大枠においては同内容である。主な内容は、以下のとおり。

  • 対象となる大規模買付行為等
    • ①「特定株主グループ」の議決権割合を20%以上とすることを目的とする株券等の買い付け行為
      (※特定株主グループの定義には、株主、その共同保有者、特別関係者のほか、これらの者の関係者(これらの者との間にFA契約を締結している投資銀行、証券会社その他の金融機関その他これらの者と実質的利害を共通にしているもの、公開買付代理人、弁護士、会計士その他のアドバイザー若しくはこれらの者が実質的に支配又はこれらの者と共同ないし協調して行動する者として取締役会が合理的に認めた者を併せたグループを指す)が含まれている。)
    • ②結果として特定株主グループの議決権割合が20%以上となるような株券等の買付行為
    • ③上記①・②の有無にかかわらず、特定株主グループが、他の株主との間で行う行為であり、かつ、当該行為の結果として当該他の株主が当該特定株主グループの共同保有者に該当するに至るような合意その他の行為、又は当該特定株主グループと当該他の株主との間にその一方が他方を実質的に支配し若しくはそれらの者が共同ないし協調して行動する関係を樹立するあらゆる行為(ただし、当該特定の株主と当該他の株主の株券等保有割合の合計が20%以上となるような場合に限る)
  • 対抗措置の発動までの手続き
    • 意向表明書の提出(60営業日前までに本件対応方針に定められた手続に従う旨の誓約文言を含み、提案する大規模買付行為等の概要などを記載した意向表明書を取締役会に提出)
    • 必要情報の提供要請
    • 取締役会評価検討期間
    • 大規模買付行為等が実施された場合の措置
      • 大規模買付者が手続を遵守しなかった場合:取締役会は、株主共同の利益を守ることを目的として、対抗措置を発動し、大規模買付行為等に対抗する場合がある。対抗措置の発動については、株主意思確認総会の場で株主の承認を求めることを基本とするが、株主意思確認総会を実施するか否かの最終判断は、取締役会が独立委員会の勧告を踏まえ決定する
  • 対抗措置の内容
    • 大規模買付者などの非適格者とそれ以外の株主とで行使条件および取得条件が異なる新株予約権の無償割当てをするもの。新株予約権の行使条件として、非適格者の保有する新株予約権は行使することができないとする。
    • 非適格者は、①大規模買付者、②大規模買付者の共同保有者、③大規模買付者の特別関係人、④取締役会が独立委員会による勧告を踏まえて、以下のいずれかに該当すると合理的に認定した者
      • (i) 上記①から④までに該当する者から会社の承認なく新株予約権を譲り受け又は承継した者
      • (ii)上記①から④までに該当する者の「関係者」。「関係者」とは、これらの者との間にFA契約を締結している投資銀行、証券会社その他の金融機関その他これらの者と実質的利害を共通にしているもの、公開買付代理人、弁護士、会計士その他のアドバイザー若しくはこれらの者が実質的に支配又はこれらの者と共同ないし協調して行動する者を指す。
  • 対応方針の有効期間
    • 2022年6月30日までに開催予定の第77期定時株主総会後最初に開催される取締役会の終結時までとする。

 これに対し、買収者側は、「特定株主グループ」に該当せず、「大規模買付行為等」も開始していない等と反論した。

3.本件対抗措置の発動までの経過

 取締役会は、2022年5月18日、債権者の本件買い集め行為及びこれに関連する一連の対応からすると、本件投資家グループが今後も法令を遵守しない対応により、急速かつ継続的な買い集めを実施する蓋然性が高く、その場合、一般株主が、投資家グループらによる大規模買付行為等が企業価値等に対しどのような影響を及ぼし得るかについて、適切な判断を下すための情報と時間を確保することができない状況にあるとして、本件独立委員会から対抗措置を発動することが相当であるとの勧告を受け、本件対抗措置の発動(新株予約権の無償割当て)を決議した。

 

 また、大規模買付行為等に応じるか否かについては、株主の総体的意思を確認することが望ましい場合があるとして、本件対抗措置の発動につき、株主の意思を確認するために、株主意思確認総会を開催することとされた。2022年6月3日付けで、株主意思確認総会の招集通知(①、)が送付された。対抗措置(本件新株予約権の無償割当て)に係る議案の提案理由については、投資家グループが株式の買い集めを行ったことから本件対応方針を導入し、その後も、投資家グループが本件対応方針に定められた手続きを遵守していないことから、株主において適切な判断を下すための情報と時間が必要であると判断して、本件独立委員会の勧告を踏まえて、本件対抗措置を発動した旨などが記載されている。

 

 さらに、2022年6月14日、取締役会において、本件独立委員会の勧告を踏まえ、特定の個人ないし法人を本件対応方針の非適格者に該当すると認定し、その旨を公表した。(これらの株主は、5月に開催された臨時株主総会において、買収者の提案議案に賛成する旨の委任状を提出した者であった)。

 

 そして、2022年6月24日に開催された総会において、本件新株予約権の無償割当ては、賛成54.46%、反対45.52%の賛成多数で可決された。

 

 買収者側は、2022年6月1日、大阪地裁に対し、当該新株予約権無償割当てについて、①株主平等原則違反、②著しく不公正な方法による発行であるとして、会社法247条1号及び2号の類推適用に基づき仮に差し止めることを求め、仮処分命令の申立てを行っていた。

4.大阪地裁の決定(申立審)

 大阪地裁は、2022年7月1日、株主側の主張を認め、仮処分命令の申立てを認容する決定を行った。論点は多岐にわたるが、以下、主要な判断のポイントについて紹介する。(なお、文中では、本件申立てを行った買収者である株主を「本件株主」とするほか、適宜文言を省略しており、決定文の正確な引用ではないことに注意されたい。)

本件対応方針が適用される場合にあたるかについて

  • 「大規模買付行為等」には、共同協調行為も含まれるところ、本件株主とその他関係者との関係を見ると、その他関係者の中には、本件株主の元組合員やそれらの役員であった者等が含まれることや、本件株主と同時期に株式取得を始めて会社株式の相当数を取得したものであること、本件株主側の委任状勧誘に応じていること等から、少なくとも本件対応方針に定められた共同協調行為がされたと認定した会社の判断に不合理な点があるということはできない。そして、本件株主、その他関係者らは、本件対応方針に定められた意向表明書の提出などの手続きを遵守しなかったものと認められるから、対抗措置を発動する場合に該当するといえる。
  • 本件対抗措置の発動にあたっては、大規模買付行為等が実施されたか、少なくとも実施される見込みがあることが必要と解されるが、本件株主・その他関係者の経営権取得に向けた行動などによれば、本件対抗措置が発動された時点において、大規模買付行為等が実施される見込みがあることも否定できない。したがって、本件対抗措置を発動したこと自体が不当なものであるとはいえない。

本件対抗措置の発動が不公正なものといえるかについて

総論

  • 本件対応方針は、本件株主が株式を取得し終えた時点以降に導入されたものであるから、かかる対応策の内容等が事前に定められ、それが本件株主に示されていたとはいえず、本件対応方針の作成が予期せぬ不利益や対応の必要性を生じさせる不意打ちとなるおそれがあるものである。
  • 本件株主自身は、今後は株式の取得を進める予定はない旨を表明しているところ、他の株主との共同協調行為があると認定された場合には、同行為が存在すると認定されたその余の株主とも共同して対応しなければ、本件対抗措置による不利益をそのまま甘受せざるを得ない立場にあるほか、いかなる行動を採れば不利益を回避することができるのかも問題となる
  • 本件株主による新たな株式の買付け行為が存在しない場合であっても、企業価値が棄損され、株主の共同の利益の保護を図る必要があるような場合には、企業価値を棄損するような経営陣の出現を防止するために新株予約権の無償割当ての方法による買収防衛策を導入することも許容されるというべきである。そして、このような買収防衛策は、複数の株主による対象会社の経営支配権の取得を目的とする行為を対象とすることも許容されるべきである。
  • もっとも、そのような買収防衛策は、株主の共同の利益を維持する必要性がある場合にはじめて許容される余地が生じるものであるから、新株予約権の無償割当てが、企業価値ひいては株主の共同の利益を維持するためではなく、もっぱら現経営陣又はこれを支持する特定の株主の経営支配権を維持するためのものである場合には、対象企業の経営権の取得の目的が本件株主の濫用的な目的によるものであり、その結果、対象会社の企業価値に重大な悪影響が及ぶなど、上記の買収防衛策を正当化するに足りる特段の事情がない限り、不公正な方法によるものと解すべきである。
  • 本件株主と現経営陣との間に委任状争奪など経営支配権をめぐって争いがある中で、行使条件等が差別的である新株予約権の無償割当てがされると、現経営陣の経営支配権が維持される結果となるものであることからすると、そのような場合は、株主の共同の利益を維持するという観点から上記の結果を招来してでも対応策を導入する必要があり、かつ、そのための手段として行使条件等が差別的である新株予約権の無償割当てを行うことが、本件株主の受ける不利益の内容及び程度、不利益を受ける本件株主が撤退措置を採ることの可否及びその内容等に照らして相当といえるときには、専ら経営を担当している取締役等はこれを支持する特定の株主の経営支配権を維持するためのものではなく、株主の共同の利益のためにされたということができ、不公正なものに当たらないというべきである。
  • また、上記の株主の共同利益を維持するための必要性があるといえるか否かについては、対応方針で掲げられた目的の合理性のほか、株主の意思を確認する総会が開催されている場合には、上記の必要性の判断においては、その帰属主体といえる株主の総体的意思を尊重すべきであるから、当該判断の正当性を失わせるような事情が認められない限りは、その結果も踏まえて検討すべきである。
  • 本件対抗措置の発動時点においては、本件株主と現経営陣との経営支配権を巡る争いが顕在化していたものといえる。その争いの程度も激しく、臨時株主総会における議案の得票差も僅差なものがあったことから、本件対抗措置の発動が、現経営陣が、経営支配権を失う危険性の認識を得た後にされていることに照らせば、経営支配権の争いが存在することによって、現経営陣は本件対抗措置の発動時点において経営支配権を維持する意図を有していたと推測することができ、その推測の程度は、相当に強度なものがあると評価することができる。

必要性について

  • 本件株主が目指す経営方針として明確なものが示されておらず、本件株主の経営支配権の取得が会社の経営に対してどのような影響を与え得るかは不確定な要素が多かったといえる。
  • 本件新株予約権の無償割当ては、株主の共同の利益を維持するという観点から実施する必要性があると認めることができる。

相当性について

  • 本件対応方針及び本件対抗措置は、非適格者とされた債権者らに生じる不利益の回避を意図した設計がされている。
  • (しかしながら)上記の措置は本件株主にとっては事前の告知を欠くもので予期せぬ不利益を生じさせるおそれのあるものであるにもかかわらず、その撤回の方法も本件の審理を通じて債務者から明らかにされるまでは通知などもされておらず、本件株主としてはいかなる行為をすれば大規模買付行為等の撤回に該当するのか、明確な認識を持つことが困難であったと言える。
  • 大規模買付行為等の撤回方法について、求釈明を受け、会社側は、撤回方法として、次の条件を充足することが必要であると回答した。
    • ①本件株主及びその他関係者が本件対応方針に定める手続きを遵守せずに、大規模買付行為等を実施した事実を認めること
    • ②本件株主及びその他関係者が保有する株式が、本件対応方針の導入時点より増加していないことが確認されること
    • ③本件株主及びその他関係者が、以下の内容を含む誓約書を提出すること
      • (主な内容)大規模買付行為等を行わないこと(共同/協調関係の解消を含む)、事前承諾なくブロックで第三者に譲渡しないこと、当面の間、株主提案を行わず、臨時株主総会の招集請求権を行使しないこと、委任状勧誘を行わないこと、経営支配権奪取を企図する一切の行為を行わないこと、等
  • 会社が示した大規模買付行為等の撤回方法においては、本件株主だけではなく、その他関係者も含めて、大規模買付行為等を行ったことの事実確認等のほか、第三者への株式譲渡の禁止、株主提案および臨時株主総会の招集請求の禁止などの誓約を求めている。このような措置は本件対応方針及び本件対抗措置において事前に明示的に定められたものとはいえないことに加えて、株主権としての本質的な内容といえる議決権などの共益権を大幅に、かつ長期間にわたって制限するものといえるほか、株式は上場しているにもかかわらずその譲渡までも禁じるもので、本件対応方針及び本件対抗措置は株主の共同の利益の保護のために必要な限度で認められるべきものであり、会社側においても、株主において適切な判断を下すための情報と時間を確保することを目的としているというのに、上記撤回方法は、目的を達成するために必要な程度を大きく逸脱して、投資家グループの株主権を広範に制限するものと評価せざるを得ず、少なくとも現経営陣の経営状況を監視する機能を大幅に減じさせるものといえ、現経営陣による債務者の経営支配権の維持という結果を招来するものといえる
  • 加えて、本件株主は(共同協調行為が認められる余地があるとしても)その他関係者を実質的に支配しているような関係にあるものとまでは認められない上、本件株主側が「特定株主グループ」に該当しない旨を表明しているのであるから、会社側においても、本件株主やその他関係者が、共同協調行為の解消を含めた撤回方法を許容する見込みは極めて少ないものと判断していると見受けられる
  • 本件株主からすれば、大規模買付行為等を撤回する方法が実質的に閉ざされていると評価するほかなく、このような措置は、本件新株予約権の無償割当ての必要性に応じた相当性を欠くものと評価し得る事情といえる。

非適格者について

  • 会社側は、本件株主及びその他関係者に加えて、本件株主のグループを非適格者と認定し、その旨公表している。・・・しかしながら、これらの認定判断は、本件対応方針で共同協調行為の認定の判定基準として定めた「(略)」との基準に沿ったものと認めることが困難なものであり、一部株主以外のグループが非適格者に該当するとは認めがたい。このような者についてまで非適格者とされるのであれば、共同協調行為の内容が極めて包括的な行為であることと相まって、現経営陣の経営支配権保持に反対した株主が、そのような投票行動を採った結果として、株主権が大幅に制限される結果を将来しかねないものであり、現経営陣による恣意的な判断がされる可能性が高いものといえるとともに、上記の非適格者の認定は、現経営陣による経営支配権の保持の目的を指し示すものとみることができる。
  • 加えて、臨時株主総会において、現経営陣の解任等を目的とした議案に賛成した株主(議決権)の84%程度が非適格者に該当する結果となる。
  • 上記の非適格者の認定は、現経営陣による経営支配権の保持を目的とした恣意的なものである可能性が排除できないうえ、その効果としても、議案に賛成した現経営陣に異を唱える株主のうち保有株式が多い株主のほとんどが排除される結果となるもので、相当性を欠く事情とみることができることに加えて、本件対抗措置が、現経営陣に異を唱える株主を排除しようとするものではないかという疑念を生じさせるものといえる。

独立委員会の勧告について

  • 共同協調行為についてみると、「あらゆる行為」とされており、明確な行為基準とは言い難く、包括的な規定であると言える。かかる包括的な規定は、根拠が薄弱な認定や恣意的な判断を招来するおそれがある。それらを担保する手段が、本件独立委員会の設置及びその勧告であるが、本件独立委員会がこれらにいかに配慮したうえで勧告を行ったものかも明らかではなく、恣意的判断の排除のためにいかなる措置を執ったのかも明らかではない。勧告があることで、現経営陣の判断の恣意性が排除されたと評価できるものではない。

結論

  • 本件対応方針及び本件対抗措置において、債権者らに生じる不利益の回避を意図した設計がされているとしても、本件における具体的な事情や債務者による運用などを踏まえれば、株主の共同の利益を維持するための手段としての相当性を欠くと言わざるを得ない。
  • そして、本件無償割当ては、専ら現経営陣又はこれらを支持する特定の株主の経営支配権を維持する目的によるものといえ、かかる措置を導入することを正当化する特段の事情も認められない。

5.大阪地裁の決定(保全異議審)

 会社側は、本件株主の仮処分命令の申立てを認容する決定を不服として、保全異議の申し立てを行い、保全異議審において、原決定で指摘された諸点について追加で反論を行ったが、いずれも認められず、大阪地裁は、仮処分決定を認可する旨の決定をした。主要な点は、以下のとおり。

  • 会社側は、本件株主らが大量保有報告書の法定の提出期限内での提出義務に意図的に違反しており、かかる違法行為に基づく買付行為は法的保護に値するのか疑問であると主張したが、裁判所は、金商法の規定は投資者保護の見地から定められたものであり、株式の取得行為が法的な保護に値しないということはできず、本件対抗措置等の不利益をそのまま甘受すべき立場にあるとは評価できないこと、加えて、会社側も本件株主が株式の取得を進めていたことを認識していたこと等から、提出期限の徒過は、本件対抗措置の相当性の判断において重視すべきものとはいえないとした。
  • 会社側は、本件株主意思確認総会の決議の存在を正当化事由として主張したが、裁判所は、まず、本件株主意思確認総会において決議されたのは、本件株主・関係者らによる大規模買付行為等を一旦停止させ、その間に、株主に大規模買付行為等の適否を検討する時間的余裕と考慮すべき要素についての情報を提供しようとする目的のためのものであるから、会社側が主張するように、経営支配権を本件株主らが取得する現実的可能性を一般的に防止する必要があるか否かについてのものとはいえず、会社側の主張は前提を欠くとした。そのうえで、上記決議の存在は、本件無償割当ての必要性を肯定する事情の一つとして尊重されるべきではあるものの、実際の運用は経営支配権を失う現実的可能性がある現経営陣に委ねられており、恣意的な運用がされる危険性があることから、その相当性については別途検討すべきであるとし、その検討にあたっての考慮要素の一つである大規模買付行為等の撤回方法について、株主権の本質的内容を大幅かつ長期間にわたって制限するものであるなど相当性を欠くものであるとした。
  • 会社側は、原決定後に、大規模買付行為等の撤回方法および非適格者の範囲を見直し、これにより、損害回避可能性が確保されたと主張した。しかし、裁判所は、このような安定的とはいい難い措置を債務者が採っていること自体が、当初の非適格者の認定判断が薄弱な根拠によるものであったことや、上記の撤回方法の検討においても本件株主の受ける不利益に対する十分な配慮がなかったことを指し示すものとみることもできるとし、相当性が認められるに至ったということはできないとした。

6.大阪高裁の決定(保全抗告審)

 大阪高裁も、原決定の判断を維持し、本件新株予約権の無償割当ては著しく不公正な方法によるものといえるとして、会社側の抗告を棄却した。

  • 会社側は、本件株主意思確認総会において、現経営陣と本件株主のいずれに経営を委ねるべきかについて株主の意思が示されたといえるから、本件対抗措置の必要性及び相当性はかかる株主の意思に照らして判断する必要があり、これによると本件対抗措置には相当性があると主張したが、大阪高裁は、本件株主意思確認総会は、現経営陣と本件株主のいずれに経営を委ねるべきかについて株主の意思を問うものになっていたといえるとしつつ、会社側が、投資家グループを非適格者に該当すると認定したこと及びこれらの者が臨時株主総会において株主側の議案に賛成する旨の委任状を提出していたことがその認定理由である旨を公表しており、かかる行為は、本件株主意思確認総会に臨む株主らに対し、会社側の提案する議案に賛成しなければ非適格者と認定され、本件新株予約権の無償割当てにおいて不利益な扱いを受けるのではないかとの懸念を生じさせるものといえるとした。そして、株主らが真に現経営陣を支持する意思で賛成票を投じたといい得るかはなお疑問の残るところであり、決議結果をもって本件対抗措置に相当性があるということはできないとした
  • 非適格者の認定についても、その要件や必要な手続きを慎重かつ十分に検討したとはにわかにいい難く、現経営陣が自己の都合で、思うままに本件対応方針の非適格者の認定を行ったのではないかと評せざるを得ないところであるとされた。また、大規模買付行為等の撤回についても、会社側が共同協調行為についていかなる条件が揃えば撤回されたものとして扱うか十分に検討していたか自体疑わしいうえ、審理中に示した撤回方法も、第三者に譲渡しないよう求めるなど相当なものであったとは決して言えないとされた。
  • 本件独立委員会についても、現経営陣による恣意的判断の排除についていかなる配慮をし、いかなる措置を執ったかについて明らかでないことは原々決定・原決定の説示のとおりであるし、買収者にとっては大規模買付行為等を撤回することにより損害を回避することが極めて困難なものであったと評せざるを得ないところであり、本件独立委員会の勧告があったこと等の点を十分に考慮しても、本件対抗措置に相当性があるとは言えないとした。

7.最高裁の決定

 最高裁は、本件の事実関係の下において、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができるとし、抗告を棄却した。

 

8.まとめ

 本件の一連の裁判所の判断においても、差別的行使条件が付された新株予約権の無償割当てについて、経営支配権の維持の目的の場合には、原則として不公正な方法によるものと解すべきであるが、例外的に、株主共同利益の維持という観点から買収防衛策を正当化する特段の事情がある場合には、経営支配権の維持ではなく株主共同の利益のためにされたといえ、必要性と相当性が認められる範囲で、不公正発行には当たらない、とするものであり、概ね、従前と同様の判断の枠組みを採用しているように見受けられる。(※一部修正しました。)

 

 しかしながら、本件では、買収者側が大規模買付行為等の撤回をどのようにすべきかが明確でなく、事実上撤回することができないことや、非適格者の認定範囲も広範であったこと等から、相当性を欠くとして、不公正発行にあたるとされたものである。

 

 本件では、買収者側が複数で買い集め等を行っていたようであり、共同協調行為の認定や、本件対抗措置の発動における非適格者の認定に難しさがあった事案であることが窺われるが、買収者側の損害回避可能性についても十分に考慮すべきであることや、独立委員会の勧告があるだけでは恣意性回避の手段として認められず、その審議過程における手段の具体化も必要であると思われること等、今後の運用において参考になる点があると思われる。

 

 文責:スパークル法律事務所

 ※上記は、一般論であり、法的助言を目的とするものではありません。個別の案件については、その前提となる状況に応じて判断する必要がございます。ご不明事項ありましたら、遠慮なくお問い合わせください。

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