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事例紹介:食べログ事件(優越的地位の濫用が争われた事例)

2022/07/14 15:57
事例紹介:食べログ事件(優越的地位の濫用が争われた事例)

 文責:弁護士 津城耕右 

 

 焼肉チェーン店を展開する会社が、大手の飲食店プラットフォームを運営する会社に対して、優越的地位を濫用したことを原因として、損害賠償の支払いを請求していた事件で、2022年6月16日、東京地裁は優越的地位の濫用を認め、賠償請求の一部を認める判決を下しました。

 

 かかる判決は、最大手の飲食店プラットフォームに関する判決であり、注目を集めています。本記事ではかかる判決を紹介します。なお、判決文は未だ公開されておりませんが、注目すべき裁判例であり、公開が待たれます。

 

 【目 次】

 第1 本判決の概要
 第2 優越的地位の濫用について
 第3 差止訴訟について

 

第1 本判決の概要

1 事案の概要

 本件は、焼肉・韓国料理チェーン店を展開する「韓流村」が、大手グルメサイト「食べログ」を運営する「カカクコム」に対し、「食べログ」が各店舗に付している評価点(5点満点中何点か)について算出方法(アルゴリズム)を変更した結果、チェーン店であることを理由として評価点が下がったと主張し、不法行為に基づく損害賠償請求として約6億4000万円の支払い及び変更後のアルゴリズムの使用の差止を求めた事案です。

 

 具体的には、韓流村は2019年5月、食べログのアルゴリズムの変更により、運営する焼肉店「KollaBo(コラボ)」の21店舗中19店舗で評価点が最大で0・45点、平均で0・17点下落し、結果として食べログ経由の月間の平均来客数は変更前より6000人以上落ち込み、月間売り上げも約2500万円減ったことを損害として主張しました。

 

2 判決内容

 東京地裁は、原告のアルゴリズムの一方的な変更という行為は優越的地位の濫用(独占禁止法(以下省略)2条9項5号ハ)に該当するとして、被告の損害賠償請求の一部を認め、3840万円の支払いを命じました。他方で、原告が求めていたアルゴリズムの差止めについては原告の請求を棄却し、認めませんでした。

 

第2 優越的地位の濫用について

 本判決では、カカクコムによる韓流村に対する優越的地位の濫用が認められたとされています。

 

1 要件

 独占禁止法(以下「法」といいます。)第2条9項5号ハの該当性が問題となっています。

 

第2条9項
この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。

 

5号 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。

 

ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。
(該当箇所以外は省略)

 

 条文から、①「事業者」が、②取引の相手方に対して、③「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを」、④「利用して」、⑤ハに該当する行為を、⑥「正常な商慣習に照らして不当に」行うことが要件になっています。本記事では、これらの要件のうち、③、⑤、⑥を取り上げます。

 

2 「自己の取引上の地位が相手方に優越していること」(=優越的地位、③)

⑴ 優越的地位の考え方

 公正取引委員会によるガイドライン(優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方 、以下「ガイドライン」といいます。)には、以下のように優越的地位の該当性に関する検討方針が記載されています。https://www.jftc.go.jp/hourei_files/yuuetsutekichii.pdf

 

 

1 取引の一方の当事者(甲)が他方の当事者(乙)に対し,取引上の地位が優越しているというためには,市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位である必要はなく,取引の相手方との関係で相対的に優越した地位であれば足りると解される。甲が取引先である乙に対して優越した地位にあるとは,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合である。

 

2 この判断に当たっては,乙の甲に対する取引依存度,甲の市場における地位,乙にとっての取引先変更の可能性,その他甲と取引することの必要性を示す具体的事実を総合的に考慮する。

 

⑵ 本判決

 本判決は、「食べログの有料会員登録をする店の地位継続が困難になれば経営上大きな支障を来す」と指摘し、著しく不利益な要請をされても受け入れざるを得ない状況にあったことを認定して優越的地位を認めました。 現在において、食べログが、飲食店にとって重要なプラットフォームとしての役割を果たしているという実態を反映した判断であるといえるでしょう。

3  ハに該当する行為(⑥)

⑴ 要件

 裁判においては、ハの「その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること」の該当性が問題になりました。

 

 本件では、アルゴリズムの変更によって韓流村の評価点が下落しています。カカクコムがアルゴリズムの設定・運用により、韓流村に対して「不利益になるように」、「取引を実施」しているかを判断するには、食べログが付している店舗の点数が取引の条件に当たるか、その下落が不利益に当たるかを検討する必要があります。

⑵ 公正取引委員会の意見 

 本件では、裁判所が公正取引委員会(以下「公取委」といいます。)に対して意見を求めており、かかる求意見に対して公取委は公審第650号という文書(以下「意見書」といいます。)で回答しています 。その中で公取委は、上記の問題点のうち、評価点の付与が「取引の実施」に当たるか、という点に関して詳しく、具体的に記述していることから、ここで紹介します。

 

 意見書では、韓流村の店舗はいずれも食べログの有料店舗会員であること、無料店舗会員は、「食べログ」において店舗情報のアップデートを行える「プロフィール登録」を行うことができ、有料店舗会員はそれに加えて、標準検索において上位に表示させる「アクセスマップ」のサービスを受けることができることを踏まえたうえで、次のように言及しています。「「食べログ」における「点数」については、有料店舗会員及び無料店舗会員との契約内容にはなっていない(中略)ものの、「食べログ」における「点数」は、掲載された飲食店について、「その時点でユーザーからの評価がどのくらい集まっているのかという見方を示す指標」(中略)であることを前提とすれば、それが「あくまで飲食店選びの一つの指標でしかない」(中略)としても、飲食店としてはこれらの店舗会員となり、「プロフィール登録」や「アクセスアップ」によって店舗情報のアップデートや消費者の露出度を高めることによってより多くの集客を図り、また、それにより利用者の評価・口コミ投稿が増えて店舗の点数を上げ、更なる集客を図るということは、取引に関連して行われている取り扱いといえる。したがって、「点数」の表示のサービスは、少なくとも取引の「実施」に当たるといえる」としています(意見書第2、2)。なお、かかる記述は差別取扱いに関する箇所の記述ですが、優越的地位の濫用に関する記述においても、これと同様とされています。

⑶ 裁判所の判断

 裁判所も、この意見を採用したものと思われますが、判決文の公開が待たれるところです。 

4  「正常な商慣習に照らして不当に」(=公正競争阻害性、⑥)

⑴ 公取委のガイドライン

 優越的地位の濫用について、公正取引委員会のガイドラインでは以下の通り記載されています。

 

 事業者がどのような条件で取引するかについては、基本的に、取引当事者間の自主的な判断に委ねられるものである。取引当事者間における自由な交渉の結果、いずれか一方の当事者の取引条件が相手方に比べて又は従前に比べて不利となることは、あらゆる取引において当然に起こり得る。

 

 しかし、自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、取引の相手方に対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは、当該取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに、当該取引の相手方はその競争者との関係において競争上不利となる一方で、行為者はその競争者との関係において競争上有利となるおそれがあるものである。このような行為は、公正な競争を阻害するおそれがあることから、不公正な取引方法の一つである優越的地位の濫用として、独占禁止法により規制される。

 

 どのような場合に公正な競争を阻害するおそれがあると認められるのかについては、問題となる不利益の程度、行為の広がり等を考慮して、個別の事案ごとに判断することになる。例えば、行為者が多数の取引の相手方に対して組織的に不利益を与える場合、特定の取引の相手方に対してしか不利益を与えていないときであっても、その不利益の程度が強い、又はその行為を放置すれば他に波及するおそれがある場合には、公正な競争を阻害するおそれがあると認められやすい。

⑵ 公正取引委員会の意見 

 意見書において、公取委は本件の公正競争阻害性に具体的に言及していますので、紹介します。

 

 意見書は、「本件アルゴリズムの設定・運用が公正競争阻害性を有するか否かを判断するにあたっては、店舗の点数に適用されるアルゴリズムの全体的な内容及び変更の状況(どのような要素が勘案されているか、要素の見直し・変更がどのような頻度で行われているか等)に加え、本件アルゴリズムが、いつ、いかなる範囲の飲食店を対象に、どのような方法により設定され、運用されているか(飲食店との事前の協議の有無を含む。)、また、飲食店に対し、その自主性を抑圧する性格を有するものであるか、どの程度の不利益を与えるものであるかが考慮されると考えられる」としています(意見書第3、3、⑴)。

⑶ 本判決

 本判決ではどのように公正競争阻害性を認定したのか明らかになっていませんが、かかる意見書の内容を踏まえ、裁判所がどのような判断をしたのか、判決の公開が待たれるところです。

 

第3 差止請求について

 本裁判では、韓流村は、店舗の評価点を下げることとなったカカクコムのアルゴリズムの使用の差止めも求めました。

1 要件

 法24条において、差止請求が規定されています。その要件は、①不公正な取引方法に該当する行為によってその利益を侵害され、または侵害される恐れのある者であること、②著しい損害が生じ、または生ずるおそれがあること、③当該行為と②の間に因果関係があること、となります。

2 本判決

 ②の「著しい損害」とは、「一般に差止請求を認容するには損害賠償請求を認容する場合よりも高度の違法性を要するとされていることを踏まえつつ、不正競争防止法等他の法律に基づく差止請求権との均衡や過度に厳格な要件を課した場合は差止請求の制度の利用価値が減殺されることにも留意しつつ定められたものであって、例えば、当該事業者が市場から排除されるおそれがある場合や新規参入が阻止されている場合等独占禁止法違反行為によって回復し難い損害が生ずる場合や、金銭賠償では救済として不十分な場合等がこの要件に該当するものと解される」とされています(東京高裁平成19年11月28日 ヤマト運輸郵政公社事件)。

 

 本判決では、「(アルゴリズムの)変更内容を明らかにすれば、消費者がこれを前提とした店選びを行うと考えられる」 ことから損害の発生は避けられるものとして、「著しい損害が…生ずるおそれ」まではないと判断し、差止請求は棄却しています。

さいごに

 本判決では、評価点の付与が取引行為にあたること、大手のプラットフォームにおいて、評価点に関するアルゴリズムが不当に変更された場合には、独占禁止法違反に該当する可能性が示された点に意義があるといえます。

 

 本判決は最新の裁判例であり、判決文は未だ公開されておりませんが、詳細な検討が必要な裁判例であると思われ、公開が待たれます。                 

以 上 

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