スポーツ観戦にあたっての写真・動画の撮影・配信等における法的問題

弁護士
伊東晃

 2024年にパリオリンピック・パラリンピックが開催されたことは記憶に新しいですが、今年は9月に世界陸上、11月にデフリンピックといった大規模な大会が東京で開催予定であり、2025年も引き続きスポーツから目が離せないといえるでしょう。

 その中で、2025年2月1日に一般社団法人日本野球機構(NPB)が、試合の観戦における写真・動画等の撮影や配信等に関するルールを設けたことが大きな話題となりました。本稿では、このスポーツ観戦時の写真・動画の撮影や配信等のルールについて概要を説明した上で、法的な観点からの若干の考察を加えたいと思います。

1. ルールの概要

(1) ルールの名称・目的

 NPBにおいて新設されたこのルールは、「写真・動画等の撮影及び配信・送信規程」という全3条からなる規程に定められています(以下「本ルール」といいます。) 。[1]

 本ルールの目的は、「主催者が有する権利及び法益を適正に保護しながら、プロ野球の普及発展と球場観戦の価値向上を図るため、試合の観戦における写真・動画等の適切な撮影、及び写真・動画等の配信・送信方法等についてのルールを示すものである」と規定されています(第1条)。最近では、主催者であるNPBや各球団の許可を得ることなく、試合のライブ配信を行い、収益を得るなどの事例が散見されるところであり、主催者の放映権を守ることに主眼にあるといえます。

(2) 本ルールにおける禁止行為の内容

 本ルールでは、上記の目的を達成するため、写真・動画等の①撮影、②配信・送信を一定の場合に禁止することとしていますが、以下では、実際に問題になりそうな例について触れていきたいと思います。

ア 写真・動画等の撮影について

 まず、写真・動画等の撮影に関しては、禁止事項を列挙する形で制定されていることからすると、原則として写真・動画等の撮影は許容されているといえます。

 そして、本ルールでは、客席で撮影機材を掲げるなど観戦の妨げとなる態様で写真・動画等の撮影すること(第3条第1項第3号)や、監督、コーチ、選手、主催者の職員等、チアリーダー、他の観客等に対し、その身体の一部を拡大または強調して撮影する行為や身元が分かるID等を撮影すること(同条第2項第2号)等が禁止されています。

 これらの規定を踏まえると、前者については観戦に訪れた観客がスマートフォンを自身の頭上高く掲げて試合開始前のアップに励んでいる選手を撮影した結果、後部座席に座る観客の観戦の妨げになるような場合には、規程違反となる可能性があります。後者については、盗撮や個人情報の流出を防止する目的と考えられますが、安心して観戦できる環境作りに資することが期待されます(関連記事として、アスリート盗撮の実情とその課題 | 記事 | 新日本法規WEBサイトもご覧ください。なお、2023年7月13日に、性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律が施行され、いわゆる撮影罪が新設されています。)。

イ 写真・動画等の配信・送信について

 本ルールでは、配信・送信に関するルールが第3条に規定されており、以下の5つの場合に写真・動画等の配信・送信が禁止されています。本ルールの規定の仕方からは、上記アの場合と異なり、原則として、配信・送信は禁止され、例外的に、友人間など限られた者との間で、かつ、業として行ったものでなく、主催者の有する権利を害するものではないと認められる場合等に限って許容されているといえます(第3条第4項第2号)。

①前二項で禁ずる行為によって取得された動画・音声・画像・試合データ
②ボールインプレイ中のプレーヤーを撮影した写真・動画等
③ボールインプレイ中のプレーヤー以外を撮影した動画のうち、140秒を超えるもの
④試合中に配信・送信するもの(ライブ動画及びライブ音声並びにリアルタイムでの試合データの配信・送信を含む)
⑤明らかに営利を目的とするもの

 この中で特に問題となるのは、②③の場合ではないでしょうか。

 ここでいう「ボールインプレイ」とは、公認野球規則で定める定義に従い、球審によるプレイ宣告後から、規定によってボールデッドとなるか、または審判員がタイムを宣告して試合を停止するまでをいうとされています(第2条第2号後段)。

 したがって、②については、試合がまさに動いている最中に、プレーヤーを撮影した写真・動画等については、第3条第4項による例外にあたらない限りは、配信・送信は一切許されていません。③については、プレーヤー以外のもの、例えば監督、ベンチプレーヤー(同項にいう「プレーヤー」とは、「投手、捕手を含む野手と打者及び走者のすべてをいう」と定義されているため(第2条第3項)、ベンチプレーヤーはプレーヤーに該当しません。)、チアリーダー、マスコット、客席・球場内の様子などを撮影した場合のその写真・動画等の配信・送信等は140秒を超える場合には同規定違反となります。

2. 考察

 以下では、本ルールに関連する法律問題について検討してみたいと思います。

(1) 本ルールの法的根拠

 本ルールは、観客が写真・動画等を撮影・配信等することを制限するものですが、まずは、このような制限が許される法的根拠について考えてみたいと思います。

 まず、著作権法上の権利をもとに写真・動画を撮影・配信等を制限することが考えられます。しかし、試合それ自体は、「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの」(著作権法第2条第1項第1号)とはいえないため、著作物に該当せず、著作権としては保護されません。したがって、著作権法を理由として観客の撮影・配信等を制限することは困難です(なお、いうまでもなく、テレビ局などが撮影し、放映している試合映像は著作物に該当することから、これを無断で配信や送信をすると著作権法違反の問題が生じます)。

 次に、プライバシー権、肖像権、パブリシティ権などを根拠に制限をすることが考えられます。しかし、これらの権利は個人に帰属する人格権等を根拠としているため、これらの権利主体は、個々の選手、監督、チアリーダー等です。したがって、これらの権利主体が権利を主張する場合は別として、主催者自体がこれらの権利を援用して、撮影や配信を禁止することも困難です。

 そうすると、別の権利に根拠を求めなければならず、ここで出てくるのが放映権ですが、これは球場等の施設を物理的に管理する権利である施設管理権が根拠となります。スポーツの放送を可能にするためには、球場内に撮影・放送機材等を持ち込んだり、球場の放送設備を利用したりするなどの対応が必要であり、これらを可能にするのが施設管理権です。施設管理権は自己の所有する球場であれば所有権が根拠となり、球場を借りる場合には占有権を根拠としますが、主催者は、通常、施設管理権を独占しているため、誰に放送させるかを自由に決定し、また、放映権を販売することができます。

 本ルールの制定経緯も踏まえると、本ルールは放映権を念頭においたものといえます。ところで、本ルールはその頭書において、「当機構は、『試合観戦契約約款第1条に基づき』、以下の通り写真・動画等の撮影及び配信・送信に関する規程を定める。」とあることから、本規程は試合観戦契約約款(以下「本約款」といいます。)に紐づいています。[2]

 そして、試合観戦契約は、観客が試合のチケットを購入したときに成立するため(本約款第2条第1項)、本ルールによる試合の撮影・配信等の制限は、チケットを購入したときから、試合観戦契約上の義務として発生することになります。

(2) 本ルール違反が発生した場合の対応

 本ルール違反が発生した場合に、主催者はどのような措置を講ずることができるでしょうか。多くの場合、動画の配信等が問題になると思われるため、この場合を念頭におき、以下では、本ルールに違反した者が、①観客の場合、②観客以外の第三者の場合に分けて検討したいと思います。

ア 観客の場合

 この場合は、試合観戦契約違反を理由とした対応を検討することとなりますが、当該観客がその時点で現に球場にいる場合とそうではない場合とで、採りうる対応は異なると思われます。

(ア)現に球場にいる場合

 試合中に、自身の客席からリアルタイムで動画を配信しているような場合が想定されますが、まずは、本約款に基づき、動画の配信を止めるよう指示することとなるでしょう(本約款第7条第2項、第8条第1項第16号、同条第2項)。

 上記の指示に従わない場合は、退場措置が問題となりますが、どのような場合に、退場を命ずることができるでしょうか。また、できるとしてどのような対応を採ることになるでしょうか。

 まず、退場を命ずることができるかについては、「主催者は、以下の各号の一に該当する観客につき、試合中その他如何なる場合でも、球場から退場させる。但し、当該観客が、速やかに退場事由を解消し、かつ、他の観客に対する迷惑の程度が軽微と認められる場合、主催者は退場を猶予することがある。」とされており、退場させる場合があることは試合観戦契約の内容となっているので可能でしょう(本約款第10条第1項第4号。なお、退場が問題となった事例は、最近でもバスケットボールのBリーグの試合で発生しております )。[3]

 ただし、退場措置は、観客のスポーツを見る権利を奪うのと同様であるため、いかなる場合でも退場をさせられるかについては綿密な検討が必要であり、違反事実の内容や軽重なども考慮されるべきものと思料されます。

 次に、退場措置の方法については株主総会における株主の退場命令における対応が参考になるかもしれません。具体的には、株主の退場命令の場合は、原則として、①ⅰ妨害行為の中止を命じる、ⅱ中止しなければ退場させる旨の警告を複数回行う、ⅲ警告に従わず、当該株主を退場させなければ正常な議事進行が困難であるという状況に至って、はじめて退場命令を発することができるようになり、②議長は、退場命令を発した際には、議事を中断する旨を宣言し、退場命令を発した旨を簡潔に説明し、当該株主の退場が完了した後、議事の再開を宣言して、議事を進行させるべきであるとされています。また、威力業務妨害罪や不退去罪が成立する余地もあることから、妨害されていた時間及び、退場するよう指示した時刻などは正確に記録しておくことになります。株主の身体に触れるような有形力の行使も基本的には不適切です。

 球場における観客の退場措置においても、上記の株主総会における例を参考にしつつ、適切な手順を経ることが必要となるでしょう。

 なお、これは筆者の私見にすぎませんが、株主はいわば会社の所有者であることからその意思決定に参加する権利を奪うのは相当な根拠が必要である一方、観客はNPBや球団等主催者の所有者ではないことや、株主総会とは異なり試合の中断はできないこと、退場に関するトラブルが発生した場合、周囲の他の観客は一瞬の間に行われる選手のプレーを見逃すおそれがあることなどを踏まえると、球場における退場措置は、株主総会における株主の退場命令より緩やかに認められる余地があるとの考え方もできるかもしれません。

(イ)すでに球場にはいない場合

 この場合は、退場措置はできないため、今後のチケットの販売拒否対象者としての指定などを検討することになりますが(本約款第11条)、その前提としての動画の配信等をした観客の特定は容易ではありません。

 この点、つい先日、芸能事務所と契約するタレントが出演するコンサートのチケットがチケット転売サイトにおいて転売されたことについて、コンサートを主催する会社が、チケット転売サイトに対し、発信者情報開示請求をした事案について、国内で初の司法判断がなされました 。[4] 

 この裁判では、コンサートを主催する会社の営業権を侵害することを理由に申立てが行われ、コンサートチケットの転売出品が権利侵害にあたるとして、申立てが認められたものです。

 上記裁判はチケットの転売に関する事案であり、写真・動画等の配信・送信とは異なるものではありますが、申立てを認めた裁判所の姿勢からは、試合観戦契約に違反する写真・動画等の配信・送信が主催者の放映権を侵害するものとして、発信者情報開示請求が認められる余地はあるかもしれません。

 観客以外の者による配信・送信

 上記のとおり、試合の主催者であるNPBや各球団が、観客に対し、配信について一定の制約を課すことができるのは、上記のとおり試合の観戦にあたり、本約款に従って観戦することが試合観戦契約の内容になっているためです。では、以下のような事例の場合、どのような点が問題となるでしょうか。

<事例>
試合を観戦した人が、140秒を超える動画を配信したところ、その配信された動画を閲覧した他の者(この方は試合の観戦には行っていないものとします)が、さらにその動画を配信し、拡散させ収益をあげていた場合

 まず、観客が配信した行為自体については、試合観戦契約に基づいて、違反の事実を問うことは可能でしょう。しかし、その動画をさらに配信した第三者については、そもそもチケットを購入していないため、試合観戦契約は成立していない以上、試合観戦契約違反という事態は起こりません。

 この場合は、端的に放映権違反を理由として、不法行為に基づく損害賠償請求など他の法律構成によって責任を問う余地はあるかもしれません。放映権は少なくとも「法律上保護される利益」には該当するものと思われるため、この場合の主要な争点は、損害の有無及び損害と再配信するという権利侵害行為との因果関係になるでしょう。この場合、なにをもって損害が発生したと考えるかは難しい問題ですが、各試合の放映権は主催者がテレビ局等の放送事業者に自由に販売していることから、主催者としては、この販売価格を損害額として主張するのが最も簡明かつ合理的ではないでしょうか。

 また、損害と権利侵害行為との因果関係についても、当該再配信された動画の視聴者数やこの動画に対する視聴者の反応(コメント内容等)、正当な権限を有する放送事業者による放送の視聴者数の増減などから、再配信された動画による影響はある程度立証できる余地はありそうです。

 ただし、その立証のハードルは高いと言わざるを得ないため、このような事態が発生した場合も想定して、事前に対応策を検討しておくことが必要となるでしょう。

 本稿では、スポーツ観戦にあたっての写真・動画の撮影・配信等における法的問題について検討しました。最近では、写真・動画の撮影・配信等に関するルールはプロスポーツを中心に整備されてきていますが、具体的な運用は未だ発展途上です。ルールの整備や運用にご不安な点があれば、遠慮なくご相談ください。

以 上

[1] 一般社団法人日本野球機構「写真・動画等の撮影及び配信・送信規程」(https://npb.jp/npb/satsuei_haisin_kitei.pdf

[2] 一般社団法人日本野球機構「試合観戦契約約款」(https://npb.jp/npb/kansen_yakkan_2025.html

[3] 宇都宮ブレックス「【お知らせ】12/22(日) 名古屋D戦における観戦約款違反者について」(https://www.utsunomiyabrex.com/news/detail/id=22514

[4] STARTO ENTERTAINMENT「チケットの転売出品に関する日本で初めての司法判断について」(https://corporate.starto.jp/s/e/news/detail/10041