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事例紹介:竹中工務店事件(労働契約申込みみなし制度の適用可否・大阪地裁令和4年3月30日判決)

2022/11/30 17:43
事例紹介:竹中工務店事件(労働契約申込みみなし制度の適用可否・大阪地裁令和4年3月30日判決)

文責:弁護士 津城 耕右

 

はじめに

 

 本記事では、二重派遣に対する労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)40条の6に規定された、いわゆる労働契約申込みみなし制度の適用の可否が問題になった事例(大阪地方裁判所令和4年3月30日、労政時報4039号12頁)を紹介する。

 

 本記事は、労働者派遣法の規定をその文言通りに適用し、二重派遣に対する申し込みみなし制度の適用を認めなかった。事案、判決の概要は以下のとおりである。

 

 

【参考】

労働者派遣法40条の6第1項本文
 労働者派遣の役務の提供を受ける者(中略)が次の各号のいずれかに該当する行為を行つた場合には、その時点において、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者から当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し、その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす(以下略)。

同項第5号
 この法律又は次節の規定により適用される法律の規定の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、第26条第1項各号に掲げる事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けること。

 

1 事案の概要

 本件の概要は以下のとおりである(なお、以下の概要は、多岐にわたる本件の事実関係のうち、原告が被告Y1に対して行った請求で労働者派遣法40条の6に関連する部分のみ抜粋している。)。

 

 被告Y3は、労働者派遣法に基づく労働者派遣事業、土木工事等を業とする会社であり、原告はその従業員である。被告Y1は建築工事等の請負等を業とするゼネコンであり、被告Y2はその100%子会社で、建築物の設計、工事管理等と業とする会社である。

 

 原告は、令和元年6月、被告Y3の求人に応募し、同月10日、被告Y3から採用内定の通知を受けた。被告Y3のB部長は、令和元年7月12日、原告を伴い、被告Y2に営業に出向き、被告Y2のCマネージャー及びDリーダーと、顔合わせを兼ねた打合せを行った。Cマネージャーは、B部長及び原告に対し、同月2日からE新サイト新築工事現場(以下「本件作業所」という。)で施工図作成業務がある場合に同業務を受ける意向があるかと尋ねたところ、受ける意向がある旨の回答を得た。被告Y1のI所長は、令和元年7月1日に本件作業所の所長となった頃以降、本件作業所で施工図作成業務を任せられる人材を探すも、適任者が見つからずに苦労していたところ、同月16日頃、被告Y2のCマネージャーから原告に関する情報を得、被告Y2に施工図作成業務を依頼することにした。これを受けて、被告Y2は、令和元年7月16日頃、被告Y3に対し、本件作業所における施工図作成業務を委託することとした。令和元年7月22日には、原告と被告Y3との間に労働契約が成立した。

 

 

被告Y1と被告Y2は、令和元年7月16日頃、本件作業所に関する業務委託代価確認書を取り交わした。

  • 件名    E新サイト新築工事

  • 業務内容  施工図作成調整業務

  • 所属事務所 被告Y3

  • 担当者   B部長

  • 選任者   原告

  • 業務期間  令和元年8月1日から令和2年5月31日まで

  • 基本委託料 月62万円(基本時間単価4000円、1日7.75時間、月20日)

  • 業務場所  本件作業所

  • 通勤交通費 1万6530円(1か月定期)

 

 被告Y2と被告Y3は、令和元年7月18日頃、次の内容の業務委託代価確認書を取り交わした。

  • 件名    E新サイト新築工事

  • 業務内容  施工図作成調整業務

  • 所属事務所 被告Y3

  • 担当者   B部長

  • 選任者   原告

  • 業務期間  令和元年8月1日から令和2年5月31日まで

  • 基本委託料 月49万6000円(基本時間単価3200円、1日7.75時間、月20日)

  • 業務場所  本件作業所

  • 通勤交通費 1万6530円(1か月)

 

 被告Y3のB部長は、令和元年8月2日、原告とともに本件作業所に赴き、同日からの本件作業所における業務内容について、被告Y1のH課長及び被告Y2のCマネージャーと打合せを行い、H課長から工事概要、施工図作成業務等について説明を受け、原告は、同日から、本件作業所において、施工図作成業務に従事した。

 

 被告Y1のH課長は、同年8月5日から同月30日までの間、原告に対し、実施内容・担当者・指示日・期限を記載した業務計画一覧表を送付し、施工図の表紙の作成、付帯鉄骨・外壁及び屋根工事・基礎躯体図・デッキ等に関する外部業者や他部署との打合せへの参加、原告が作成した地盤改良図の修正、外部業者が作成した基礎躯体図・軸伏図・基礎伏図・土間伏図等のチェック、外部業者への修正指示、質疑リストの作成、進捗状況の報告等を求めた。原告は、H課長からの上記求めに応じるとともに、図面リストのたたき台を作成してその確認を求め、施工図担当者及び専門業者との打合せスケジュールを送信して打合せへの同席を求め、作図工程の確認を求める等した。

 

 原告は、本件作業所における業務を開始して以降、被告Y1の担当者から業務指示が行われることについて、偽装請負ではないかと疑い、令和元年8月13日、大阪労働局を訪れ、是正申告を行った。大阪労働局は、令和元年8月23日、被告Y1に対し、労働者派遣・請負業務の誤った運用が行われている恐れがある旨の情報の提供を受け、同月30日に訪問調査を実施すること、ついては被告Y2及び被告Y3と交わしている施工図作成調整業務に関する書類を準備するよう通知した(以下「本件労働局通知」という。)。被告らは、本件労働局通知を受けて、原告の本件作業所における業務に関し、訂正・変更等を行った。大阪労働局は、令和元年8月30日、本件作業所を訪れ、訪問調査を実施した。

 

 被告Y3のB部長と被告Y2のGマネージャーは、令和元年9月20日、本件作業所で、原告と打合せを行った。その際、B部長は、原告に対し、本件作業所における原告の就労形態を同年10月1日より業務委託から労働者派遣に切り替え、被告Y1の担当者から直接指示を受けることの申入れを行った。原告は、B部長に対し労働者派遣に切り替えることに賛同の意を示した。

 

 被告Y2のCマネージャーは、令和元年9月25日、原告に対し、被告Y3から被告Y1に直接労務を提供する労働者派遣契約になると、被告Y2を離れることになるため、被告Y2からBIM業務[1]を紹介することはできないと伝えた(7月12日の打ち合わせの際、原告は、BIM関係の業務 があるか尋ねて、BIMに関心があることを示した。B部長は、「このプロジェクトが終了し次の物件ではBIM業務にかかわらせてもらえるのか。」と尋ねたところ、Cマネージャーは、その時期にならないとわからないがBIM業務があれば対応してもらえるように考える旨答えた、という経緯がある。)。原告は、この頃、BIM業務を紹介してもらうことができないなら、被告Y3で働く意味はないと考え、その旨を被告Y3のF社長に伝えた。

 

 被告Y3は、令和元年10月2日、原告に対し、「令和元年10月31日付退職勧奨同意による退職につきまして、10月分賃金を下記の通り支払います。」などと記載した同月1日付の「給与支払いについて」と題する書面を交付し、その後、退職合意の成立と認識しつつ、原告が雇用保険の支給条件との関係で解雇の記載があることを欲していると考えて、原告の求めに応じて、解雇通知を発行した。

 

 原告は、被告Y1に対して、原告と被告Y1との間で、労働者派遣法40条の6に基づき労働契約が成立したとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めて本訴訟を提起した(Y2、Y3に対する請求内容、裁判所の判断ともに以下では省略する。)。

 

2 判決の概要

 本判決は、以下のように述べて被告Y1への労働者派遣法40条の6の適用を否定した。

 

 被告Y1と被告Y2との間及び被告Y2と被告Y3との間には、それぞれ設計業務委託基本契約があり、本件作業所における施工図作成業務について、被告Y1と被告Y2及び被告Y2と被告Y3は、それぞれ業務委託代価確認書を取り交わし、更に、被告Y2と被告Y3は業務委託契約確認書を交わし、被告Y1は被告Y2に業務を委託する旨の注文書を発行し、被告Y2から請書の交付を受け、被告Y2は被告Y3に業務を委託する旨の注文書を発行し、被告Y3から請書の交付を受けていた。
 したがって、本件作業所における原告の就労については、被告Y1が被告Y2に施工図作成業務を委託し、被告Y2が被告Y3に同業務を再委託し、被告Y3が自らの労働者である原告を同業務に就かせるという二重請負(業務委託)の形式が採られていたといえる。

 他方

 原告に対する本件作業所における業務の遂行方法に関する指示は、専ら被告Y1から行われ、被告Y2と被告Y3は、原告が本件作業所における業務に就くに当たっての打合せに参加したほかは、原告の業務の予定と実績、労務時間及び実費を原告からの報告を基に把握するにとどまり、また、被告Y1と被告Y2の間及び被告Y2と被告Y3の間でそれぞれ取り交わされた業務委託代価確認書では、委託料を時間単価で算定し、通勤交通費を支給するとされていることに徴すると、報酬も、仕事の完成そのものに対する対価というより、労務の提供に対する対価としての側面の強いものと認められる。
 請負は、請負人が、業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行い、自らの責任で仕事を完成させ、仕事の完成に対して対価を得ることを内容とするところ、上記のような本件作業所における原告の就労実態や対価の決め方に照らすと、本件作業所における原告の就労については、請負ということはできず、実質的にみて、労働者を提供しこれを他人の指揮命令を受けて労働に従事させる労働者供給に他ならないというべきである。

 そうすると、本件作業所における原告の就労は、①被告Y1が被告Y2に施工図作成業務を委託し、②被告Y2が被告Y3に同業務を再委託するという形式をとりながら、被告Y1が上記①②の契約を経て、被告Y3の労働者である原告に直接指揮命令を行い、原告の労務の提供を受けるという二重の労働者供給(二重派遣)の状態であったということができる。

 しかし、労働者派遣法40条の6が申込みみなしの対象としているのは、「労働者派遣の役務の提供を受ける者」であるところ、被告Y1が契約を締結している相手方である被告Y2は、被告Y3が雇用する労働者である原告とは雇用関係にはないため、被告Y1と被告Y2は、労働者派遣法2条1項(ママ)にいう労働者派遣関係には立たない。したがって、被告Y1は、被告Y2から職業安定法4条7項の労働者供給を受けているものとして職業安定法44条に違反しているといいうるものの、労働者派遣法40条の6の申込みみなしの対象には当たらない。

 以上によれば、労働者派遣法40条の6第1項5号の要件について判断するまでもなく、被告Y1に同条を適用又は準用することはできない。

 

 

3 労働者派遣法40条の6について

 労働者派遣法40条の6は、労働者派遣の役務の提供を受ける者が同条各号のいずれかに該当する行為を行った場合には、その時点において、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者から当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し、当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす、とする規定である。

 

 かかる規定は、違法な派遣に対して一定の制裁を科すことで、派遣法の規制の実効性を確保することを目的としている。

 

4 本件における論点

 本件では、被告Y1が被告Y2に施工図作成業務を委託し、被告Y2が被告Y3に同業務を再委託し、被告Y3が自らの労働者である原告を同業務に就かせるという二重請負の形式が採られていた。このような二重請負の状況において、被告Y1に対して労働者派遣法40条の6を適用し、労働契約が成立したものとみなすことができるかについて、本件では争われた。

 

 かかる問題点について、厚生労働省は通達(平成27年9月30日「労働契約申込みみなし制度について」(職発0930第13号)[2] )において、多重請負の形態でいわゆる偽装請負等の状態となっている場合について、労働者派遣法40条の6が「労務者派遣の役務の提供を受ける者」としていることから、労働者を現実に雇用している者(労働者派遣の役務の提供を行う者)と直接に請負契約を締結している者が労働契約の申込みをしたものとみなされると解されるとしたうえで、注文主・元請負人・下請負人の三者がおり、注文主が下請負人が雇用する労働者に対して指揮命令等を行ったような場合は、(注文主が下請負人から労働者派遣の役務の提供を受けているものではないことから)労働者派遣法40条の6の適用はないと解されるとしている(ただし、元請負人から労働者供給を受けていると解されるとしている。)。

 

 このような通達が存在する中、原告は、「二重派遣」「のような労働者供給の場合にも、労働者保護の見地から、労働者派遣法40条の6が適用ないし少なくとも準用されるべきである」と主張し、被告Y1への労働契約申し込みみなし制度の適用を求めた。

 

5 本判決の意義

 本判決は、労働者派遣法40条の6が申込みみなしの対象としているのは、「労働者派遣の役務の提供を受ける者」であるところ、被告Y1が契約を締結している相手方である被告Y2は、被告Y3が雇用する労働者である原告とは雇用関係にはないため、被告Y1と被告Y2は、労働者派遣法2条1項(ママ)にいう労働者派遣関係には立たない。したがって、…労働者派遣法40条の6の申込みみなしの対象には当たらない」と判示し、被告Y1への申し込みみなし制度の適用を認めなかった。

 

 労働者派遣法において、労働者派遣は、「自己の雇用する労働者を…他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させるこ」とと定義されている。本件においては、被告Y2が原告を雇用していない以上、被告Y2は「自己の雇用する労働者を」被告Y1の労働に従事させているということはできず、被告Y2は被告Y1に対して、労働者派遣の役務の提供を行っているということはできない。そして、労働者派遣法40条の6においては、「労働者派遣の役務の提供を受けるもの」であることが要件となっている。したがって、労働者派遣の役務の提供を受けていない被告Y1に労働者派遣法40条の6の適用はできない、というのが、上記の判旨が示していることである。

 

 かかる判旨は、労働者派遣法をその文言通り適用するものであり、二重派遣へのみなし申し込み制度の適用を否定したものである。その内容は、先述した厚生労働省の通達と同様の見解を採用したものである。なお、申し込みみなし制度の適用は否定されているが、判決文においては「被告Y1は、被告Y2から職業安定法4条7項の労働者供給を受けているものとして職業安定法44条に違反しているといいうるものの」として職業安定法違反がある点に関しては当然の前提としている点は留意するべきである。

 

 なお、本判決は控訴されていることから[3]、高等裁判所の判断が待たれるところである。

 

以 上

 

[1]BIMとは、作図の際に利用されるツールの一種である。
[2]https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000092369.pdf
[3]https://www.minpokyo.org/incident/2022/09/9403/

 

執筆者:弁護士 津城 耕右
    kosuke.tsushiro@sparkle.legal

 

本記事は、個別案件について法的助言を目的とするものではありません。
具体的案件については、当該案件の個別の状況に応じて、弁護士にご相談いただきますようお願い申し上げます。
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