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株主間契約(議決権拘束契約)違反があった場合の対応

2022/03/28 09:36
株主間契約(議決権拘束契約)違反があった場合の対応

文責:弁護士 三谷革司

 

 株主間契約において、株主が議決権行使方法に関して一定の合意を行うのが通常である。しかし、当該合意が守られない場合において、株主間契約に明確な定めがなく、当事者がどのような救済を得られるかについて問題となる場合があり、関連する様々な法的論点がある。この点に関し、令和2年の東京高裁の判断を紹介しつつ、以下、整理しておきたい。

1.議決権行使に係る合意(議決権拘束契約)

 株主間契約や、ベンチャー投資の場面における投資契約などにおいて、特定の株主の権利として、株主総会における議決権行使に関する一定の取り決めを行う場合がある。典型的には、取締役の選任等に関し、持株割合に応じてx名の候補者を指名するといった権利である。発行会社は、当該議案を株主総会に付議しようとする場合、当該株主と事前に協議し、その権利が実現されるような調整を行わなければならない。

 

 このような契約を、「議決権拘束契約」と呼んでいる。この取り決めの内容を定款に定めることもできるが、内容の柔軟性や変更手続きの容易さなどの点から、当事者の合意によって定めることの方が多い。従前は、この議決権拘束契約の有効性自体について議論があったが、現在では、当事者間における法的拘束力を認める見解が支配的であり、原則有効と考えて差し支えないだろう。

 

 ただし、その合意の存続期間などについては契約上明確でない場合等もあり、また相続や承継などが発生した場合に、その効力範囲をどこまで及ぼすべきかが問題となり得る。裁判例においては、様々な理由づけが前提になっているが、経営権に関する株主間の合意について、長期間経過後の拘束力を否定するものがある(東京地判昭和56年6月12日)。

2.近時の裁判例

 近時、株主間契約に基づく権利義務に関する東京地裁、高裁での裁判例が出たため、紹介したい。本件は、経緯は複雑であるが、概要、昭和47年2月当時、3名の取締役を互選することを定めた株主間契約(取締役選任合意)があったものの、平成27年5月に至り、相続人間で取締役の選任議案を巡って紛争となった事案である。

 

 東京地裁は、取締役選任にかかる合意について、法的拘束力を有するとしつつ、承継人の拘束力については、利益分配に関する定めがないことや、将来取締役の選任を累積投票で行うべく定款改正を協議することが定められていたこと等を考慮し、それぞれの相続人の代に至った段階での利益分配も意識して締結されたものとは解し難いと判示して、当該合意の拘束力を否定した(東京地判令和元年5月17日)。

 

 一方、東京高裁は、株主間合意の法的効力について、会社法その他の関係法令の趣旨を考慮に入れて、契約当事者の属性、契約内容、契約締結の動機・目的、議決権比率、締結の時期等の各要素を検討の上で、契約当事者たる株主の合理的意思を探求し、当事者双方が法的効力を発生させる意思を有していたか、法的効力を伴わない紳士協定的なものとする意思を有していたにすぎないか、法的効力を発生させる場合の効力の内容・程度(損害賠償請求ができるにとどまるか、契約に沿った議決権行使の履行強制ができるか、契約に沿わない議決権行使により成立した株主総会決議の決議取消事由を肯定するか)について、契約当事者の意思を事実認定した上で、法的効果を判断していくことになると判示した。その上で、当該合意に法的効力を付与する意思があったとは認められないとし、仮にその意思があったとしても、相続発生時には効力を消滅させる意思があったと認定して、現時点では効力は消滅しているとした。(東京高判令和2年1月22日)

 

 注目すべき点は、上記東京高判がさらに次のように判示したことである。「株主間契約をめぐる法的状況の十分な知識とこれに基づく会社経営の企画力がある株式会社間で締結された株主間契約であって、契約当事者の保有する株式の合計が発行済み株式総数の全部または大半を占め、内容が具体的で違反の有無が判断しやすく、方針や意図が明確な合意ほど、法的効力を発生させる意思のもとに契約当事者が合意をしたという事実を推認しやすいことになる。その内容、方針、意図から法的効力を発生させる意思が明確に認定できる株主間契約については、契約に沿った議決権行使の履行を強制する内容の裁判(判決・仮処分命令)をすることが可能であり、契約に沿わない議決権行使により成立した株主総会決議について、定款違反があった場合に準じて、株主総会決議取消の判決をすることも可能であると考えられる。ただし、後者の株主総会決議取消判決ができるのは、株主間契約の当事者ではない株主に予想外の影響を及ぼすことを避けるために、発行済み株式の全部を株主間契約の当事者が保有している場合に限られる。」

 

 上記判示は、現在の実務で多く締結されている株主間契約が対象になると思われ、その違反があった場合の効力について、裁判所の考え方が示されたという点において小さくない影響があると思われる。

3.違反があった場合の対応

 株主間契約は、当事者間の債権的合意としては有効であるとしても、会社との関係における効力が直ちに生じるわけではないと考えられる。そのため、仮に株主間契約の内容に違反した議決権行使が行われた場合、どのような救済が認められるべきかが問題である。すなわち、この場合でも、一旦、株主総会決議が成立すれば、それ自体は有効であり、株主としては債務不履行に基づく損害賠償請求しかできないと解するのが通説であり、加えて、損害額の立証は難しく、実質的な救済が得られないことが問題である。(そのため、株主間契約においては、違反した場合の取り決め(買取請求や違約罰など)をしておくことにより手当てをすることもある)。

 

 これに対し、近時は、すべての株主が契約当事者となって議決権拘束契約(株主間契約)が締結されている場合には、定款違反とも同視できるとして、定款違反の場合に準じて、株主総会開催禁止の仮処分等の事前の差止事由や、株主総会決議の取消事由に該当すると考える見解も有力となっている(江頭憲治郎『株式会社法』(第8版)351頁、田中亘『会社法』(第3版)187頁参照)。あるいは、特別利害関係人の議決権行使により著しく不当な決議がされたと構成する見解もある。

 

 さらに進めて、契約に従った議決権行使をしない株主がいる場合、他の契約当事者が意思表示に代わる判決(民事執行法177条)を求めることは契約内容が明確であれば可能であるとする見解もある(田中亘『会社法』(第3版)188頁参照)。

4.スズケン・小林製薬事件(平成19年)

 株主間契約をめぐる裁判例は少ないが、関連する事例として、名古屋地裁平成19年11月12日決定(スズケン・小林製薬事件)がある。この事案は、業務資本提携に関する基本合意書において、「株式の譲渡」が禁止されているところ、一方当事者が株式交換を実施しようとしたのに対し、他方当事者が議決権行使禁止仮処分を申し立てた事案である。

 

 当該事案では、「株式の譲渡」に株式交換が含まれるには疑問があるといわざるを得ないとして、差止の申立ては却下されたが、裁判所は、「①株主全員が当事者である議決権拘束契約であること、②契約内容が明確に本件議決権を行使しないことを求めるものといえることの二つの要件を充たす場合には例外的に差止請求が認められる余地があるというべきである。」と判示した。前記の東京高裁判決の内容は、上記の名古屋地裁の決定例と軌を一にしているといえよう。

5.東京高裁判決を受けて

 東京高裁が示した考え方は、近時の有力説に沿うものであり、裁判所も、当事者の意思が明確であれば、履行強制の裁判をすることや、決議取消の判決をすることも可能と考えているように見受けられる。もっとも、現段階では、そのような先例は存在しない状況であり、どのような場合であればこれが許容されるかの指標もない状態であるから、まずはそのような手段によることがないよう予め手当てをしておくというのが基本的な対応にはなるだろう。

 

参考裁判例

・東京地判昭和56年6月12日、判タ453号161頁

・東京高判平成12年5月30日、判時1750号169頁

・東京地判平成11年10月12日、判時1750号175頁(上記第一審)

・名古屋地決平成19年11月12日(スズケン・小林製薬事件)、金判1319号50頁

・東京地判令和元年5月17日、金判1569号33頁・判時2470号95頁

・東京高判令和2年1月22日、金判1592号8頁・判時2470号84頁

以 上

 

弁護士 三谷革司 (第一東京弁護士会所属。東京大学法学部・コロンビア大学LLM。NY州弁護士登録。コーポレート・企業法務一般・M&A・独禁・危機管理・コンプライアンス・薬事・株主提案対応・株主総会アドバイスなど)

 

 ※上記は、一般的な解説であり、法的助言を目的とするものではありません。個別の案件については、その前提となる状況に応じて判断する必要がございます。ご不明事項ありましたら、遠慮なくお問い合わせください。

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